力のあるところに必ずしも権利があるといえず、権利は常に力を伴うものではない。近代国家の確立とともに、私人による「自力救済」は禁止されたが、これにより、近代国家は、法の保障する権利・法的利益の実現を自己の任務として引き受けることとなった。このような法の保障する権利・法的利益の国家による実現過程を執行というが、私法上の権利・法的利益の執行過程を定めているのが民事執行法である。 特に、民事執行手続は、民事訴訟手続が観念的な権利・法的利益を確定するのに対し、これを強制的に実現する過程として民事裁判制度の一翼を担っている。 民事執行手続の運用は、権利・法的利益の実現として適正・迅速を旨とするが、執行を受ける者の立場を保護しなければならず、同時に、社会・経済活動への影響も考慮しなければならない。 以上のような民事執行手続にしたがって権利・法的利益を強制的に実現するには債務名義が必要となる。しかし、債務名義を得るための訴訟手続が長期間にわたる場合に、例えば、債務者が判決が言渡される前に財産を処分したり、引渡しを求めている不動産を他の第三者の占有に移したりして、やっと債務名義を手に入れたとしても、もはや執行できず、苦心の末に得た判決がただの「紙切れ」になる場合が起きる。 そこで、将来の強制執行を見越して、権利・法的利益の現状を維持・確保しておく民事保全制度が定められている。 本講義においては、以上のような権利・法的利益の強制的実現過程である民事執行法と権利・法的利益の暫定的な保護である民事保全手続を主たる対象として講義をすすめたい。 また、適時、民事手続法全体の流れの中から立体的に民事執行法・民事保全法をとらえるようこころがける。 本講義は、民事救済法として、民事執行法と民事保全法について講義をします。 講義計画は以下のとおりです。 民事執行法・民事保全法通論 民事執行法 民事執行法総論 金銭執行(差押え、換価、満足) 非金銭執行 執行救済手続 民事保全法 民事保全法総論 仮差押え 仮処分 保全救済手続
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