刑事政策演習

最終更新日:2017年8月21日

授業科目名
刑事政策演習
標準年次
3・4
講義題目
処遇から見る少年法
開講学期
通 年
担当教員
武内 謙治
単位数
4単位
教  室
205
科目区分
展開科目
履修条件
(1)やる気があること(超過的主観要素です。参加申込書にしっかり徴表させてください)。
(2)毎回演習に参加できること(客観的要件です)。
(3)現時点における刑事法や少年法に関する知識の多寡は全く問いません(やる気、興味、体力のうちのどれかがあれば、知識はそのうちどうにかなります)。
(4)このシラバスを3回読み返し、2度熟考した上で、参加するかどうかを決めてください。
(5)ゼミに入った後は、文献・実態調査、報告、議論、論文執筆に積極的に取り組んでもらいます。はっきりいって時間と労力が掛かります。しかし、「大学のゼミ」とは、そもそも、そのようなものです。皆さんも、潔く諦めて、時間と労力を割いてください。
授業の目的
 形式的に言えば、(a)文献資料の収集・読解能力、社会調査の遂行能力、不足している資料を自分の力で新しくつくることができる能力、(b)調査結果を整理する能力、(c)プレゼンテーションの能力(自分の言葉で説得的・効果的に報告を行う能力)、(d)議論する能力(他者の意見に耳を傾け、自分の言葉で議論を行う能力)を身につけてもらうことが授業の目的です。しかし、これらはどちらかといえば技術的な問題です。
 この授業の本質的で、なおかつ、最大の目的は、自分で発見した問題を、自分で設定した議論の土俵の上で、自分なりの思考にこだわって徹底して考える能力をつけてもらうことにあります。その際には、欲張りですが、理屈と現実の狭間で、社会事象を法的に把握できる能力と、法的思考を「社会化」できる能力まで身につけてもらいたいと考えています。
 なお、参加者の皆さんには、「楽しく」勉強を進めてもらいたいと考えていますが、「楽に」勉強してもらいたいとは全く考えていません。むしろ、知的活動を「楽しい」と感じるまでには、ある程度の苦労をして、自分の頭と身体を使ってもらうことが必要です(残念ながら楽をして身に付くことは、世の中には何一つありません)。
授業の概要・計画
(1)授業のテーマ
 このゼミでは、毎年、刑事政策学・犯罪学・行刑法学上の重要問題を扱います。今年度は、処遇のあり方から少年法の問題を体系的に検討します。
 皆さんは、きっと、「ショウネンイン」とか「ショウネンケイムショ」とか「ホゴカンサツ」とか「ジドウジリツシエンシセツ」という言葉を何度か耳にしたことがあることでしょう。実際、少年事件に関するニュースは、今日、マスコミ報道で数多く流されています。しかし、少年法上の処遇体系と実際の処遇の内容については、ほとんど正確には知られていない、といっても過言ではありません。事実、この分野は、一般に余り知られていないばかりでなく、学理においても、理論的・政策的な体系的把握という点で、未解明の問題が極めて多く残されているといえます。少年の「責任」と処遇選択原理、保護処分と刑罰との異同、処遇選択と「被害者の利益」、処遇と予防(積極的一般予防、消極的一般予防、特別予防)、「新しい社会内処分」のあり方等々、重要な理論的課題だけでも枚挙にいとまがありません(これらは日本だけではなく、国際的に見ても重要で、なおかつ、最先端の問題です)。
 そこで、今年度のゼミでは、少年法上の「処遇」をめぐる諸問題を取り上げて、検討を加えます。

(2)検討の方法
 このゼミでは、書も捨てず、街にも出てもらいます。
 検討の方法をごく大雑把にいえば、次のようになります。──(a)問題を自分で発見することにこだわってもらう、(b)他人の発見や考えと違っても、自分の発見や考えとその「論証」に徹底してこだわってもらい、それを口に出してもらう、(c)「論証」に必要な材料の収集・作成に(ただならぬ)執念を燃やしてもらう、(d)その際、現実を知る必要があるのならば、自分の身体を使って現実を知ってもらう、(e)自分の先入観や「仮説」と現実が違っていたのであれば、どうすればよいか考えてもらう。議論の再構成が必要であれば、自力でそれを行ってもらう。
 もちろん、自分ひとりで考え続けていても埒が開かないことの方が多いでしょうから、参加者全員の前で報告を行ってもらい、相互に忌憚のない議論を交わしてもらいます。平たくいえば、(私も含めて)参加者全員がボコボコに叩き合いながら、自分の疑問や発見をどんどん発展させていこう、というわけです。
 こうした「研究活動」をそのまま終わらせるのは非常にもったいないので、年度末には集大成として立派な論文を執筆してもらい、ゼミ論文集を作成します(論文の提出は、単位認定の要件とします)。
 なお、正規の講義時間以外でも、フィールド・ワークを行ってもらいますので、注意してください。
 検討の方法については、第一回目の講義の際に受講者の方と相談して微調整を行います。

(3)授業計画
 具体的な年間計画については、第一回目の講義の際に受講者の方と相談して決定します。
 最初の数ヶ月は理論的な問題を扱い、その後調査を交えながら議論を発展させていきたいと、現在のところは考えています。
授業の進め方
 参加者が多数にのぼる場合には、幾つかのグループをつくります。担当者には、文献・実態調査を行った上で(グルーピングを行った場合には、さらにサブ・ゼミを行った上で)、予め簡潔なレジュメを作成して頂き、報告をしてもらいます。報告は、座ったままうつむいてレジュメを読み上げるような、日本の大学でしかやっていないようなものではなく、「プレゼンテーション」を行ってもらいます(OHPやパワー・ポイントが必要なのであれば、どんどん使ってください)。それに基づき、参加者全員で議論を行うわけですが、議論の中で新しく出てきた疑問や関連する問題については、さらに調査を進めてもらい、再度報告してもらいます。
 要するに、<調査→整理→報告→議論>を繰り返しながら議論を発展させていくことが基本になると理解してください。
 詳細については、第一回目の授業の際に、受講者の方と相談して決定します。
教科書・参考書等
(1)少年法に関する一般的な教科書や参考図書を事前に指示することは特にしません。しかし、開講日までに、「少年法」に関する書籍を少なくとも一冊は読んでおいてください(第一回目の授業の際に、何を読んだか質問します。その尋問の際に、何も読んできていないことが判明した場合には、受講を認めません)。また、法務総合研究所『平成17年版 犯罪白書』(国立印刷所、2005年)は、各自購入の上、ゼミに必ず持参して下さい(「特集」との関係で、平成17年版でなければダメです)。
 少年法に関する書籍は山ほどありますが、堅実な研究による裏づけがあるという意味で、間違いなく良書といえ、なおかつ、このゼミでの使用に耐えうるのは、服部朗・佐々木光明『ハンドブック少年法』明石書店(2000年)でしょう(ただし、本書は2000年の法改正には対応していません)。また、最新の問題を取り上げているという点では、葛野尋之編『「改正」少年法を検証する』(日本評論社、2004年)がお勧めです。最も網羅的で、なおかつ深い考察を行っているといえます。自分で読んでみてよく分からないところがあれば、開講日前であっても、武内まで、お気軽にご質問ください(少年法に関する書籍に関する一応の読書案内は、武内のHPに置いていますので、各自ダウンロードして下さい)。
(2)「論証」や「証明」の仕方については、必ずゼミ開始までに意識できるようになっておいてください。野矢茂樹『論理トレーニング』(産業図書、1997年)、苅谷剛彦『知的複眼思考法』(講談社+α文庫、2002年)などの本が有益でしょう。
(3)開講日までに、図書館(文系図書室)の使い方くらいは、理解しておいてください。
(4)いしかわまりこ=村井のり子=藤井康子『LEGAL RESEARCH』(日本評論社、2003年)など、いわゆるリーガル・リサーチに関係する書籍もゼミ活動には有益です。もっとも、リーガルリサーチに関しては、これらの書籍の代わりとなりうる有用なインターネット・サイトもありますので、そちらを利用するということでも構いません。
成績評価の方法・基準
 授業への出席(25%)、報告(25%)、議論での発言(25%)、学年度末に予定している論文の内容(25%)を総合的に考慮して、成績評価を行います。
 成績評価は「極めて厳格に」行います。希望者に対しては、理由と評価の基礎にした資料を添えて成績評価に関する全ての情報を開示する用意があります。
その他(質問・相談方法等)
(1)当たり前のことですが、無断欠席・正当な理由のない欠席は認めません。以降の出席を認めないことと単位認定を行わないことをサンクションとします。
(2)受講者の方には、武内作成の「少年法講義案」のPDFデータを差し上げます。受講者の方は、春休み期間中に、110MB以上の空き容量のあるCD-ROM、DVD、フラッシュメモリ、HDその他の記録媒体を持参の上、武内の研究室まで来て下さい。
(3)他大学、他分野との交流も積極的に行います。今年度は、佐賀大学の吉岡剛彦講師(法哲学専攻)のゼミと交流・議論を行う予定でいます。
(4)所属学部・身分を問わず、オブザーバー参加も歓迎します(事前に連絡だけは下さい)。ただし、(当然のことですが)正規のゼミ生の方と全く同じ義務を負って頂きます。
(5)ここまで読まれてお分かりの通り、このゼミは、いわゆる「法科大学院対策」を直接の目的とはしません。むしろ、自分で新しい問題を発見し、問題意識を深め、発展させていく「研究」に近い活動を行うゼミと理解してください。
 参加される皆さんには、短時間で要領よく問題を右から左に処理する能力よりも、短絡せずに、「二度熟考する」ことができる力、「疑い、ためらい、行ったり来たりすること」ができる能力、問題を安易に切りつめたり途中で思考停止したりせずに、自分で問題を立て、途中で挫折してもなお考え続けることができる力を身につけてもらいたいと考えています。多様な問題関心をもつ皆さんの参加を期待しています(もちろん、法科大学院への進学を希望される方の参加も期待しています)。
(6)ゼミの運営は、完全に参加者の皆さんの自主性にお任せします。しかし、学部ゼミだからといって議論のレベルを落とすことだけはしません。むしろ逆に、参加者の皆さんには──大学の学部段階のゼミだからこそ(!)──可能な限り最先端の理論や知見に触れてもらいます。
(7)…とエラそうに縷々書き連ねていますが、私自身も含めて、身分・年齢・学年・性別などを問わずに、参加者全員が平等な立場で、互いに忌憚なく議論できるゼミにしたいと考えています。
(8)授業を担当する武内に「何ができそうなのか」については、<http://www.law.kyushu-u.ac.jp/〜takeuchi/>や<http://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search-cgi/faculty2_j.cgi?ID=K000143>で公開されている情報をご覧の上、ご判断ください。その上で、このゼミが本当に自分のニーズに適っているのか、各自で(批判的に)ご検討下さい。
(9)不明な点があれば、武内(takeuchi@law.kyushu−u.ac.jp)までどうぞ。
過去の授業評価アンケート