●法政基礎演習 II

最終更新日:2017年8月21日

授業科目名
●法政基礎演習 II
標準年次
2
講義題目
裁判例に学ぶ物権変動論
開講学期
前 期
担当教員
梁田 史郎  
単位数
2単位
教  室
304
科目区分
入門科目
履修条件
・真面目かつ主体的にゼミに参加する心構えを持っていること。
・民法Iを履修していることが望ましい。
授業の目的
・民法Iで民法総則に続き物権法総論を学ぶことになるであろうが、その予習復習をかねて民法全体を理解する上でひとつの関門となる物権変動論の理解を深める。
・実際の裁判例で、法理論がどのような意味を持つかを確かめる。
・判例ハンドブック等と公式判例集の記述がどのように違うのかを確かめる。
・ここまでは分かった、ここから先が理解できないというような思考方法を身につけ、分からないところが分かるようになることを目指す。
授業の概要・計画
 裁判例を素材として民法(財産法)を理解する鍵とでもいうべき物権変動論の基礎を勉強します。物権変動の中心となるのは「物」の所有権移転です。普段の生活の中で意識することはないかもしれませんが、たとえば皆さんがある物を購入するとき、法的には売買契約と所有権移転が観念されます。契約を中心とする債権関係を規律しているのが民法典第3編「債権」の諸規定で、所有権を中心とする物権関係を規律するのが民法典第2編「物権」の諸規定です。このような意味で、取引法ともいわれる民法(財産法)を理解するために、債権法だけでなく物権変動の理論を理解することは欠かせません。
 我国の民法上、物権変動は当事者の意思表示のみによって効力を生ずるものとされています(民176条)。その一方で、物権変動が常に外部より認識できるような一定の表象を伴わなければならないという「公示の原則」というものがあります。我が民法は、物権変動を第三者に「対抗」するためには、不動産に関しては「登記」(177条)、動産に関しては「引渡し」(178条)をなすことを要求しています。この「登記」「引渡し」は対抗要件と言われますが、まず「対抗」あるいは「対抗不能」の意義を理解しましょう。
動産物権変動の公示方法は引渡し、すなわち「占有」移転ですが、これは「現実の引渡し」(182条1項)に限らず、「簡易の引渡し」(182条2項)、「占有改定」(183条)、「指図による占有移転」(184条)の方法も許されています。これら簡便な引渡し方法にあっては、意思表示のみで占有が移転し、第三者はほとんど認識することができないから、公示としては不十分でしょう。したがって、動産の占有には「公信力」が認められています(192条)。例えば、売主が本当は物の所有権を有していなくても、その占有を信頼して債権法上有効な契約によって物を購入した者は、所有権を取得します。つまりこの買主は、真の所有権者に対して所有権取得を「対抗」できることになります。
 不動産に関する「登記」にはこのような公信力は認められていません。すなわち虚偽の登記を信頼して、所有権者らしい外観を有しているけれど本当は所有権を有していない売主から不動産を購入した者は、たとえ債権法上は有効な売買契約によっていたとしても所有権を取得することはありません。つまりこの買主は真の所有権者に「対抗」できないことになります。
 また、たとえ真の所有権者から債権法上有効に不動産を購入したとしても、「公示の原則」に従って登記を備えなければ、その物権変動を第三者に「対抗」することはできません。したがって、登記を備えていない買主は、同じく有効な売買によって真の所有権者からさらに不動産を譲渡された者がいたとすると、その者に「対抗」できないことになります。この第二の買主も登記を備えなければ第一の買主に対抗することはできませんから、先に登記を備えたほうが最終的に所有権を取得できるということになります。このような例が、いわゆる二重譲渡の問題です。
 このように物権変動論は、抽象的ですが論理的に説明のつく理論です。このような理論を具体的な裁判例を素材に検討します。物権変動論を若いうちに自分の頭で考え抜くということは、論理力のトレーニングに非常に有効だといえるでしょう。
授業の進め方
・第1回目のゼミで、自己紹介、ガイダンスを行います。
・参加者の人数を見て判断しますが、毎回数人で組を作り報告を担当してもらいます。報告は作成したレジュメに基づいて20分程度でお願いします。その後質疑応答に移ります。
・一つの裁判例につき2回のゼミで検討し、1回目は事実論中心、2回目は法律論中心に議論していく予定です。
・基本的に担当教員が司会を務めることになりますが、状況によってランダムに指名する可能性もあります。コメンテーターというものは特に設けませんが、全員がコメンテーターのつもりで議論に参加することが望まれます。
・報告担当者は報告内容について、ゼミでの議論を踏まえ、後日レポートを提出してください。 
教科書・参考書等
・民法Iで使用しているテキストと六法を毎回持参してください。
・西村重雄「大学における要件事実論教育の実際とその問題点―昭和三二・一二・二七最民判を素材として―」司法研修所論集79号(1987年)254-290頁という論文を各自図書館でコピーして持参してください。司法研修所論集は法学部図書館Aj70/S/65(書庫入り口別置)です。
成績評価の方法・基準
出席状況、レポートのほか、ゼミでの議論への貢献度、質疑応答の鋭さなどを総合的に判断します。
その他(質問・相談方法等)
・質問等は研究室で随時受け付けますが、メール等でアポイントメントを取れば確実です。連絡先は初回のゼミでお知らせします。
・参加者多数につき初回授業で班分け(5班)を行います。各班それぞれ半年のうちに2回ずつ報告できるようにしたいと思います。
過去の授業評価アンケート