●コアセミナー【法政基礎演習 I 】

最終更新日:2017年8月21日

授業科目名
●コアセミナー【法政基礎演習 I 】
標準年次
1
講義題目
労働問題を考える
開講学期
前 期
担当教員
山下 昇
単位数
2単位
教  室
3研
科目区分
基幹教育科目
履修条件
医学が、人間の病気を治すように、法律学は、「社会の病気(問題)」を治すことを目的とした学問です。本演習では、現代の社会問題の一つである「労働問題」を取り扱いますので、この問題に関心を持ち、積極的に改善策を考えたいと強い意識をもって、相当程度の時間を費やす覚悟のある方を求めます。
授業の目的
1 コア・セミナーの共通目標
まずは大学における勉強の「仕方」の基本となる以下の点についてその技法を身につけてもらうことを目指します。

(1)情報の集め方について学ぶこと
大学の勉強は、与えられた教材・資料から何かの結論を導くのではなく、自らテーマを設定して、必要な情報や資料を収集することから始まります。まずは、そうした情報や資料の収集のテクニックを身につけてもらいます。その初歩は、図書館の利用方法やインターネットによるデータベースの検索などですが、そうした情報の利用が便利になった反面、情報の真偽を見極める力(リテラシー)も涵養も必要になります。コア・セミナーでは、早い段階で、図書館の利用方法やデータベースでの検索方法などについて、講習会に参加してもらいます。

(2)情報の分析の仕方について学ぶこと
様々な情報のリソースがありますが、大学での勉強にとっての基本は、「読書」です。その際、これまでの「読書感想文」とは違い、的確に著者の主張を理解し、かつ、批判的に読む習慣をつける必要があります。また、法律学の本は、普通の本に比べて難解であることが多いようです。これは、基本的な法律用語をマスターすれば、解決できる部分と、読書をしながら論理的思考をすることによる「慣れ」で解決できる部分があります。論理的な情報の分析の習慣を身につけ、より多くの情報・知識を習得できるようにしましょう。

(3)議論の方法について学ぶこと
社会問題の解決において、たった一つの正解を導くことはおよそ不可能といえます。例えば、労働問題は、使用者からみる視点と、労働者からみる視点とでは、まるっきり見え方が違います。また、人々の労働は、社会にも還元されることから、労使以外の第三者からの視点もあります。そして、良い悪いは一定の価値判断によりますが、経済学的視点(たとえば効率性)と法律学的視点(たとえば人権論)ではモノサシが違います。派遣労働は、経営効率性からはいい側面がありますが、労働条件の悪化など働く人の人権という観点からは問題があります。したがって、多様な視点から物事を捉え、かつ、自分と違う視点からの批判にも耐えられるような議論を意識して、ディスカッションすることを学びましょう。 その際、様々な意見を調整するバランス感覚も重要です。もちろん、得意不得意もあるでしょうが、大学で法律学を学び、将来は社会で生きていく上で、ディスカッションやディベートの基本的な技法・作法の習得は不可欠です。

(4)自分の意見を説得的に文章にまとめる技術について学ぶこと
議論をするのが苦手な人がいるように、議論は得意だけでも、文章書くのは苦手という人もいるでしょう。大学ではレポートや論文を書く機会が非常に多くなりますので、最低限、そうした「書く」技法も身につける必要があります。そこでは、「じっくり読んでいただければわかります」という押しつけの文章ではなく、誰が読んでもわかりやすい文章を作成し、プレゼンテーションするための「約束ごと」があります。裁判官が判決文を書くのにも必要ですが、サラリーマンが営業したり、企画会議でプレゼンテーションする場合にも、当然必要なテクニックです。

2 本演習の目的

以上の目標は、基本的な約束ごとは説明を聞いて理解し、達成される部分と、実践の中でしか達成できない部分があります。おそらく、多くは、実践の中で、自然と身に付くことになるでしょう(もちろん、上記の目標を意識しながら実践しなければ、身につきませんが)。
そこで、本演習は、比較的身近な(あるいは将来遭遇するであろう)問題である様々な労働問題(言い換えると、労働法上の争点)について、@何が問題なのか、Aどのような解決の方向性があるのか、Bそのためには何をしなければならないのか、ということについて、ゼミ参加者の皆さんに考えてもらいます。
また、最終的な目標として、関心のある労働問題について、調べてもらい、論文集を作成したいと思います。もちろん、労働問題の捉え方は多様ですので、一応、法律学的な思考を基本としますが、政治学的・経済学的分・社会学的な分析で議論しても構いません。
授業の概要・計画
1〜3回目はオリエンテーションです。まずはじめに自己紹介(本演習を希望した理由などを含む)をします。1〜3回目のうち、コア・セミナーの共通目標の一つである「情報の集め方について学ぶこと」の一環として、図書館の利用方法やデータベースでの検索方法などについて、講習会に参加します。また、4回目以降のテーマの設定と担当者を決めますので、下記に示した取り扱うテーマのうちで、自分が希望するものを決めておいてください(第1から第5希望くらいまで順位をつけておくこと)。

4回目以降は、報告担当者に報告をしてもらいます。取り扱うテーマは下記のとおりです。

(1)フリーター・若年者雇用
(2)派遣労働
(3)生活保護とネットカフェ難民
(4)ワーキングプアー
(5)名ばかり管理職・名ばかり正社員
(6)職場の「うつ」・メンタルヘルス
(7)職場におけるハラスメント
(8)女性の雇用
(9)雇用のグローバル化(外国人労働者など)
(10)現代の労働組合と団体交渉
授業の進め方
1〜3回目までは、教員主導でオリエンテーション等を行いますが、4回目以降の進行は、学生主体とし、教員は極力発言を控えます(最後に総括的なコメントをするにとどめるようにしたいと思います)。なお、必要に応じて、テーマに関連するTV番組を簡単に紹介することがあります。

4回目以降は、各回のテーマにそって下記の@〜Cの役割を中心に、ディスカッションを進めます。
@報告者(2名):レジュメを作成・配布の上、20分程度の報告を行う
→報告者は、配布用報告レジュメと報告用の読み上げ原稿(3500〜4000字程度)を作成する
A司会者(1名):議論の進行を司り、参加者の発言を促す
→議論が中断しないように、質問事項をいくつか考えてまとめておく
Bコメンテーター(1名):報告者の報告について5分程度コメントし、議論のきっかけを作る
→コメントの準備原稿(1000字程度)を作成した上で、当日の報告を踏まえて臨機応変にコメントする
C記録書記(2名):議論自体には参加せず、発言の内容について大まかに記録する
→記録を基に、翌週までに、議論の内容をまとめて提出する

@〜Cの役割にあたっていない参加者も、各自、テーマについてリサーチし、質問事項をまとめたメモを作成し参加することとします(当日回収します)。また、毎回、翌週までに、取り扱ったテーマについてレポートを作成し(800〜1000字程度)、提出してもらいます。
教科書・参考書等
特に、教科書等は指定しませんが、各回のテーマに関連した文献を、適宜ご紹介します。
なお、労働問題に関心のある方は、さしあたり、下記のような文献がありますので、紹介いたします(くどいようですが、教科書ではありません)。
山田昌弘『少子社会日本』(岩波新書)
野口やよい『年収1/2時代の再就職』(中公新書ラクレ)
井上幸夫・笹山尚人『フリーターの法律相談室』(平凡社新書)
朝日新聞特別報道チーム『偽装請負』(朝日新書)
生田武志『ルポ最底辺』(ちくま新書)
島本慈子『ルポ解雇』(岩波新書)
成績評価の方法・基準
出席状況は特に重視します。無断欠席は厳禁です。その他、報告内容、レポート、議論への参加状況(発言の内容)などを総合的に判断します。
その他(質問・相談方法等)
質問等は、随時、メールにて受付ます。@law.kyushu-u.ac.jpの前に、yamaをつけてください。オフィスアワーに質問に来ても結構です(その際は、事前に、質問内容をご連絡いただけると効率的に対応できると思います)。また、報告者は、必ず、報告日の3日前までに、報告用の読み上げ原稿をメールでお送りください(適宜、コメントして返信いたします)。
過去の授業評価アンケート