行政法 I 【行政過程論】

最終更新日:2017年8月21日

授業科目名
行政法 I 【行政過程論】
標準年次
2
講義題目
具体例で学ぶ公共制度設計論
開講学期
後 期
担当教員
原田 大樹
単位数
4単位
教  室
大講
科目区分
基盤科目
履修条件
憲法I(憲法総論・統治機構論),民法I(民法総則)の内容を理解していること(単位取得の有無は問いません)。
授業の目的
行政法は国・地方公共団体などが行っている活動のルールを定めた法令群の総称で,「行政法」という名前の法律は存在せず,またいわゆる六法科目でもありません。しかし,スーパーで買い物をするときに目にする食品表示(食品衛生法・JAS法等),レジで支払う消費税(消費税法),スーパーからの帰り道で立ち止まる信号機(道路交通法),病気になったら必要な保険証(国民健康保険法・健康保険法等)など,わたしたちの日常生活の中で行政法は大きな役割を果たしています。また,昨今のニュースで話題になっていることの多くは行政法と関係しています。こうした,無数とも思える行政法規の共通要素を抽出して学びやすくしたものが「行政法総論(一般行政法)」です。この中には,行政が市民に対して働きかけを行う部分に注目する「行政作用法」,行政活動によって自らの権利・利益が不当に侵害された市民がその救済を求める「行政救済法」,行政活動の担い手の構造を扱う「行政組織法」の3分野が含まれていますが,この授業では主として「行政作用法」及び「行政組織法」を取り上げます(「行政救済法」は本学では行政法IIで取り扱います)。

この授業の目的は次の3点あります。第1は,社会認識の眼を養うことです。行政法は公務員志望の方だけのための科目ではありません。さきほどの例に挙げたように,行政法と日常生活とは深い関係があります。行政法を勉強することは,この社会のあり方を理解することと同じなのです。第2は,行政と市民とのフェアな関係を構築するにはどのようなルールが必要かを考えることです。行政法関係の大きな特色は,法関係の一方当事者である行政に権力性をはじめとする大きな力が認められていることであり,もう一方の当事者である市民の立場を強化するためのしくみが必須です。このルールを勉強すれば,将来わたしたちが行政と交渉する場面で,自らの立場を十分説明することができずに泣き寝入りすることを防げるかもしれません。第3は,世の中のしくみを変えていく(公共制度設計)手法を学ぶことです。社会問題の多くは法的なしくみのつくりかたに起因しています。行政法を学ぶことにより,その問題の原因はどこにあり,どのような制度設計をすれば解決の見込みがあるかを考えるための手段を獲得することができます。この授業では,国家による制度設計の問題だけではなく,地方自治体や国際機構,あるいは民間主体が公共制度を設計したり運営したりする局面をも視野に入れたいと思います。
授業の概要・計画
(授業の概要)

授業では以下のような内容をとりあげます。

I. 行政法の基礎理論(9回)
行政法全般に関係する基本的な概念や考え方を扱います。具体的には,法律による行政の原理,立法過程論,行政法の一般原則,多元的システムにおける行政法の法源,行政法と民事法の相互関係を取り上げます。

II. 行政組織の基礎(2回)
行政活動の担い手は誰で,どのような組織構造・原理を持っているのかを学びます。具体的には,行政組織法総論,国家行政組織,地方行政組織・地方分権論,国際機構論を対象とします。

III. 行政手続の基本構造(5回)
行政と市民とのフェアな関係を構築する上で極めて大きな役割を果たすのが行政手続の考え方です。行政手続の基本的な考え方を紹介したあと,行政と情報に関する法システムをとりあげます。行政手続の詳細な内容は,IVで個別の行政活動類型を説明する際にあわせて取り上げます。

IV. 行政活動の諸類型(9回)
雑多に見える行政活動をいくつかの類型ごとに学びます。行政の行為形式論として通常扱われる内容(行政基準・行政計画・行政行為・行政契約・行政指導)に加え,その他の諸手法についても取り上げて法的観点からの検討を加えます。

V. 行政の実効性確保(2回)
行政上の義務が履行されて初めて,一定の政策目的の実現が図られます。行政の実効性を確保するための手段にはいかなるものがあるのか,それらは機能しているのかを学びます。

まとめ・期末試験(3回)
これまでの学習を踏まえ,具体的に行政法規を取り上げ,頭から読んでみることで,どこにどのようなしくみが埋め込まれているか確認します。

(授業計画)
[ ]は該当する教科書の頁(目安)です。

I. 行政法の基礎理論

第1回(10/05)行政法の基本概念(A) [1-22]
第2回(10/07)行政法の基本概念(B)
第3回(10/12)法律による行政の原理(A) [23-42, 67-75, 177-192]
第4回(10/14)法律による行政の原理(B)
第5回(10/19)行政法の法源(A) [42-67, 158-176]
第6回(10/21)行政法の法源(B)@法の一般原則
第7回(10/26)行政法の法源(B)A条例論
第8回(10/28)行政法と民事法(A)[76-93]
第9回(11/02)行政法と民事法(B)

II. 行政組織の基礎

第10回(11/04)行政組織の基礎(A) [193-258]
第11回(11/09)行政組織の基礎(B)

III. 行政手続の基本構造

第12回(11/11)行政手続とその意義 [95-112]
第13回(11/16)情報公開制度(A) [113-140]
第14回(11/18)情報公開制度(B)
第15回(11/30)情報収集・管理制度(A) [140-157]
第16回(12/02)情報収集・管理制度(B)

IV. 行政活動の諸類型

第17回(12/07)行政活動の諸類型 [259-270]
第18回(12/09)行政基準・行政計画(A) [271-303]
第19回(12/14)行政基準・行政計画(B)
第20回(12/16)行政行為[1] 行政行為の概念と効力(A) [304-318]
第21回(12/21)行政行為[1] 行政行為の概念と効力(B)
第22回(01/06)行政行為[2] 行政行為の手続・実体ルール(A) [318-349]
第23回(01/11)行政行為[2] 行政行為の手続・実体ルール(B)
第24回(01/13)行政契約・行政指導・新しい規制手法(A) [350-393]
第25回(01/18)行政契約・行政指導・新しい規制手法(B)

V. 行政の実効性確保

第26回(01/20)行政上の義務履行強制 [394-409]
第27回(01/25)義務違反に対する制裁 [409-424]

まとめ・期末試験

第28回(01/27) 行政法規を読み解く [261-263]
第29回(02/01) 予備日
第30回(02/03) 期末試験 (予定)
授業の進め方
講義形式をとりますが,参加者との対話を重視し,双方向の授業となるようにしたいと思います。人数による制約があるとはいえ,なるべく参加者に発言を求めることにします。授業は主としてレジュメに従って進行し,また板書も用います。

この授業は,原則として2回を1つのユニットとして進行します(構成上の理由から1回で1つの内容を説明する回もあります)。各項目は(A)と(B)に分かれており,(A)の回では基本的で絶対に理解しておかなければならない内容を説明します。(B)の回では(A)の内容を復習した上でより発展的・応用的で高度な内容を取り扱います。この進行に合わせて,次のような予習・復習を行うと,授業の内容を理解しやすくなると思います。予習の段階では,教科書の該当部分をまず読んで下さい。そして,予習課題に対して,教科書などを読んで自分なりの解答を考えて書いてきてください(この部分につき,授業中に指名して読み上げてもらうこともあります)。(A)の回の予習課題はその回の理解のための前提知識として必要な内容の確認,(B)の回の予習課題はその回で取り扱われる重要な判例・具体例の内容の確認が中心です。復習の段階では,教科書・判例集の該当部分をもう一度読み直し,各回のレジュメ末尾にある復習課題を解いてください(指名してこの部分の答え合わせをすることから次回は始まります)。(A)の回の復習課題はその回の重要用語を穴埋め方式で確認すること,(B)の回の復習課題は事例問題・説明問題が中心となります。内容の大きな区切り(原則として各部の終わり)では演習課題を配布しますので,それまでの内容の理解の確認に利用してください。

講義題目にもありますように,この授業では「具体例」を重視したいと思います。さまざまな行政法規の共通部分を教えるという科目の特性上,抽象的な理論や概念の登場は避けられません。しかし,具体例を踏まえて学べば,理解を深めることはできると思います。授業では条文・判例・時事問題などの具体例を適宜とりあげて説明します。とりわけ「判例」による学習に重点を置くことで,具体的紛争事例の把握と,そこから法的な問題を抽出する能力の涵養を図ります(このことは,学生にとっての苦手意識が強い「事例問題」を解くための技術を身につけることにもなります)。最終的には,参加者のみなさんが抽象的な内容を具体例によって説明する力を高めて欲しいと考えています。
教科書・参考書等
教科書として

大橋洋一『行政法I 現代行政過程論』(有斐閣・2009年)(¥3,780)

判例集として

大橋洋一=斎藤誠=山本隆司『行政法判例集 総論・組織法[第2版]』(有斐閣・2006年)(¥2,835)
(※2010年4月に刊行された第2刷(追補が含まれています)を入手してください)
(※九州大学生協文系書籍部入荷分には,刊行時とは無関係に全て追補が含まれています)

を用います。いずれも授業の際に使用しますので必ず購入してください。

参考書として

大橋洋一編『政策実施』(ミネルヴァ書房・2010年9月刊行予定)

を挙げておきます。その他の基本書・参考書は初回授業で説明します。
成績評価の方法・基準
定期試験(100点満点)で評価します。

ただし,小テスト(10点満点)を数回(3回程度),授業中に実施する予定です(詳細は第1回授業で説明します)。この合計点と定期試験の成績とを合算して成績評価をします(100点以上の場合は100点として扱います)。小テストは,授業内容の理解ができているかを確認するためのものであると同時に,定期試験で失敗した人を救済する目的もあります。定期試験だけでは不安だという人は小テストを利用してください(ただし,過去の実績からすると,小テストである程度の点数を取っていないと単位取得は難しい傾向があります。この科目は事後的救済を一切行わないので,卒業との関係でどうしても単位が必要という場合には,必ず小テストを受験してください)。なお小テストは加点の方向にしか用いませんので,何らかの正当な理由で小テストを受験できなかったとしても,これに対する救済措置はありません。
その他(質問・相談方法等)
質問等は授業終了後のほか,メールでも受け付けます。オフィスアワーは設定していませんが,研究室在室中はいつでも質問等を受け付けます(お互いの時間を有効活用するためにも,予めメール等でアポイントメントをとることをお勧めします)。

中型六法クラスに掲載されている法令を取り上げますので,中型六法(判例六法プロフェッショナル・模範六法等)の購入を勧めます。これらの最新版が発刊されるまでの間にこの授業でポケットサイズ六法非掲載の法律条文を用いる場合には,事前に連絡して各自で条文をプリントアウトしてもらうか,こちらで該当条文を抜粋したプリントを配布します。
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