履修条件 |
積極性溢れる受講者の参加を希望します。なお、本授業は、大学院法学府修士課程の「国際知的財産法研究第二」との合併授業です。
受講人数を事前に把握したいと考えますので、参加を希望される方は、2010年9月30日(木)までに、授業担当者(メールアドレスは、kojima[アットマーク]law.kyushu-u.ac.jp)までご連絡下さい。参加者の人数によっては教室変更の必要性もありますので、ご協力いただければ幸いです。 |
授業の目的 |
本授業では、知的財産法(著作権法)の英語文献を講読します。知的財産法に対する理解を深めるとともに、外国語(英語)能力の涵養を目指します。 |
授業の概要・計画 |
(授業の概要)
本授業では、Ronan Deazley, Rethinking Copyright: History, Theory, Language (Edward Elgar 2006)を講読します(全201頁、本文177頁)。本書は、著作権の成立展開過程をたどる歴史の部分と現代的展開の2部から構成されています。
最近、学生の皆さんと議論をしていると、「歴史なんか学んで何の役に立つんですか?」という趣旨の質問に出会い、愕然とすることがあります。そのような方にとっては、本授業で議論する著作権の歴史など、単なる過去の出来事であり、現代の最先端の問題を考えるに当たって、何ら参照する価値がないということになるのでしょう。しかし、それは法学・政治学を含めた社会科学を学ぶに当たって正しい態度ではないと、授業担当者は考えています。
私たちが法学・政治学で用いる用語のどれ1つをとっても、「歴史的」でないものは存在しません。「著作権」という概念は、少なくとも近代以前には存在しませんでした。また、著作権法が守備範囲とする「芸術」という概念も、前近代までは「技術」(これは現代では、特許法の守備範囲です)という概念と未分離であり、それが独自の地位を占めるようになったのは特殊近代的なことです。このように、私たちが日常何気なく用いている概念の多くは、ある時代の、ある社会構造を前提として、あたかも「無」から「有」が生まれるように誕生したものです。
そうである以上、私たちが根本的に思考を研ぎ澄ましたいと考えるのであれば、その概念が生まれ出た、まさにその瞬間に立ち会い、それがいつの時代の、いかなる社会構造の、いかなる前提条件の下で生まれ、その後のどのような政治的、経済的、社会的状況の中で変化を遂げてきたのかということを丹念に跡づける作業が必要になるでしょう。場合によっては、せっかく生まれた概念を支える社会構造等が維持されえなくなったため、その概念の発展が妨げられ、混乱に陥っているという場合もあるでしょう。
つまり、現代の様々な問題について、私たちが錯綜した議論状況に一定の見通しを与えたいと考えるのであれば、歴史的考察に基づいた明晰な思考こそ、一見遠回りかつ無駄であるように見えながら、実はそれが問題解決に当たっての近道であるということになるはずです。これこそ、現代において歴史を学ぶ意義ではないかと、授業担当者は考えています。
本書の著者であるRonan Deazleyは、著作権の歴史に関する透徹した思考をベースに、現代における最先端の著作権の問題に鋭く切り込んで行っています。そこで紡ぎ出される議論には大変な説得力があります。
最初期の著作権は、現在のように「創作者(Author)」に対してではなく、「媒介者(Intermediary)」である「書籍業者(Stationer)」に対して与えられたものでした。その理由は何であったのか、そして現在のように、創作者に著作権が与えられるに至る過程の変遷はいかなるものであったのかという問題を考えることは、著作権の本質に迫る上で大変に重要です。
また、デジタル時代を迎え、情報流通の過程における媒介者の役割が再認識されると同時に(最近のGoogle Bookの問題を見ればお分かりでしょう)、私たち利用者も日常的に著作権に関係する当事者の一人として、その存在価値を高めつつあります。本書が扱う著作権の成立展開過程を辿る歴史的考察には、大いに現代的意義があると思われます。
奇しくも、本年(2010年)は、近代著作権法の先駆けをなす「アン女王法(Statute of Anne)」が、1710年にイギリスで成立してから300年という記念すべき年に当たります。本書の講読を通じ、著作権法とは、どのような利害関係者の利害を調整し、いかなる社会的な目的を達成しようとする法律なのかという「古くて新しい問題」を、参加者全員で再検討する契機になればと考えています。
(授業計画)
第1回(10/6): pp.1-9 第2回(10/13): pp.13-25 第3回(10/20): pp.25-37 第4回(10/27): pp.38-55 第5回(11/10): pp.56-67 第6回(11/17): pp.67-78 第7回(11/24): pp.78-97 第8回(12/1): pp.101-106 第9回(12/8): pp.106-122 第10回(12/15): pp.122-134 第11回(12/22): pp.135-143 第12回(1/12): pp.143-161 第13回(1/19): pp.161-166 第14回(1/26): pp.167-177 第15回(2/2): まとめ |
授業の進め方 |
1.概要
講読において、特に担当者を決めることは致しません。また、文章の全訳を求めることはありませんが、文章のまとまり(意味の固まり)を自分で把握し、その要約を行なって下さい。
2.予習時の留意点
(1)予習の際、何が文章の主題として取り上げられているのか、何と何が対比(比較)して書かれているのか、従前の問題状況はどういった内容で、筆者はそれに対してどのような分析を加え、従来の考え方とどのように違った意見を持っているのか、といった点について、意識的に注意を払っていただきたいと思います。
(2)これまでの担当教員の経験から申し上げますと、学生の皆さんは、個々の短熟語の意味を辞書で調べることに意を用いすぎ、一定の長さの文章が固まりとして何を言っているのかを把握することが苦手であるような気がします。そのような「木を見て森を見ない」状況に陥らないように気をつけながら、予習を行なって下さい。
(3)重要な法的概念について、授業担当者が質問を行なうこともありますので、丁寧に予習していただきたいと思います。
3.授業時間について
前述したとおりですが、毎回、それなりの分量を講読しますので、授業時間を若干延長することもあります。予めご了承下さい。 |
教科書・参考書等 |
1.著作権の関係上、参加者全員に本1冊を丸々コピーしてお渡しすることはできません。講読する文献を生協文系書籍部に用意致しますので、参加者は各自購入した上で授業に臨んで下さい。
2.授業には、英和辞書(電子辞書でも可)を必ず持参して下さい。
3.授業担当者の外国語教育に対する基本的な考え方を知る上での参考文献を、法学部の「コアセミナー(法政基礎演習1)」(2007年度前期・金曜4限)のシラバスに記していますので、関心のある方は御覧いただきたいと思います。URLは以下のとおりです。
http://www.law.kyushu-u.ac.jp/syllabus_gakubu/syllabus.cgi?nengakki=2007_1&id=62
4.著作権法についての基本的知識を得たい場合には、中山信弘『マルチメディアと著作権』(岩波新書(赤426)、1996年)に目を通されることをお勧めします。
5.著作権の歴史に関する参考文献としては、白田秀彰『コピーライトの史的展開』(信山社、1998年)、山田奨治『〈海賊版〉の思想――18世紀英国の永久コピーライト闘争』(みすず書房、2007年)、ソーントン不破直子『ギリシヤの神々とコピーライト――「作者」の変遷、プラトンからIT革命まで』(學藝書林、2007年)などがあります。 |
成績評価の方法・基準 |
授業への出席、平素の態度により評価を行います。自発的に発言がない場合には、こちらから適宜指名し、発言していただくことにします(その際に、発言者の氏名を尋ねます)。
つまり、発言回数、発言内容などが成績評価に反映されることになります。従って、積極的な発言がない場合には、当該参加者には自ずと低い成績評価しか与えられないことは、予めご了解下さい。 |
その他(質問・相談方法等) |
ご不明な点があれば、授業担当者までお尋ね下さい(メールアドレスは、kojima[アットマーク]law.kyushu-u.ac.jp)。 |
過去の授業評価アンケート |
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