労働法演習

最終更新日:2017年8月21日

授業科目名
労働法演習
標準年次
3・4
講義題目
懲戒
開講学期
通 年
担当教員
山下 昇
単位数
4単位
教  室
307
科目区分
展開科目
履修条件
絶対条件ではありませんが、前期に開講される労働法の講義を履修することが望ましいのはいうまでもありません。本演習は、労働法の内容のうち「懲戒」に焦点を当てますが、労働法のあらゆる領域で「懲戒」が問題となることから、労働法全体の基礎知識を身につけておくことにより、深い理解や活発な議論ができると思います。
疑問に思ったことをゼミの場できちんと発言しようという意欲を持っていること(間違っていたり、見当違いの意見でもケッコウです)。
授業の目的
民間企業の労働者になるにせよ、国家・地方自治体の公務員になるにせよ、雇用労働や公務労働において、懲戒処分は、労働者にとって重要な問題です。たとえば、私用メールは、形式的には、職務専念義務に違反する立派な懲戒事由になりますし(ただし、通常は、少々の私用メールで懲戒処分に至ることはありませんが)、休暇日の飲酒運転という私的な行為であっても、懲戒解雇(免職)になることもあります。また、まじめに職務を遂行していれば、何も問題はないだろうと思う人もいるでしょうが、会社や組織のことを思えばこそ、強い使命感から会社等の不正をマスコミにリーク(内部告発)したり、逆に不正の隠蔽に協力して、結果的に懲戒処分を受けるようなこともあります。法律上も、労働契約法15条、国家公務員法74、82条等、地方公務員法27、29条等で、懲戒処分について定めをおいています。実際に、懲戒解雇(免職)を含めて、様々な懲戒処分に関する労働紛争が日常的に発生し、裁判でも争われています(判例集にもたくさん掲載されています)。本ゼミでは、こうした懲戒処分に関して、民間の労働者だけでなく、公務員を対象とするものも含めて、裁判例等の検討を行い、現在の日本における懲戒処分の法的問題を議論することを目的とします。
授業の概要・計画
ゼミでは、懲戒をめぐる様々な問題を取り扱うこととします。その内容は、履修者の関心や希望に合わせて決めていく予定ですが、さしあたり、以下のような内容について検討したいと思います。
@公務員と民間労働者の処分基準
公務員のほうが厳しく処分すべき?(たとえば、飲酒運転)
・熊本県教委事件・福岡高判平18・11・9
・京都市教委事件・大阪高判平24・8・24
A職業倫理と懲戒
学校の先生は聖職者?
・東京都教育委員会事件・東京地判平23・10・31
鉄道会社社員の痴漢行為はより悪質か?
・小田急電鉄事件・東京高判平15・12・11
バスやタクシーの運転手の飲酒運転は厳罰にすべきか?
・ヤマト運輸事件・東京地判平19・8・27
B懲戒解雇と退職金
懲戒解雇相当事由がある場合、退職金の不支給は当然か?
・X社事件・東京地判平24・3・30
C懲戒権の根拠・行使要件
なぜ懲戒権を行使できるのか?
親の懲戒権(民法822条)と何が違うの?
・関西電力事件・最1小判昭58・9・8
D懲戒の手続
手続違反の懲戒処分の効力は?
・山口観光事件・最2小判昭58・7・15
・グラバス事件・東京地判平16・12・17
E懲戒解雇と普通解雇
何が違うのか?
・高知放送事件・最2小判昭52・1・31
・トップ(カレーハウスココ壱番屋)事件・大阪地判平19・10・25
F懲戒としての降格
通常の降格と何が違うのか?
・東京都自動車整備振興会事件・東京高判平21・11・4
G私生活上の非行
犯罪は懲戒事由?(飲酒運転、痴漢等)
・大阪府教育委員会事件・大阪地判平24・1・16
不倫は犯罪じゃないけど懲戒事由?
・大阪府教委事件・大阪地判平2・8・10
Hハラスメント
セクハラ・パワハラ・アカハラは懲戒事由?
・日本ニューレット・パッカード事件・東京地判平17・1・31
・X社事件・東京地判平24・1・17
I勤務態度不良
遅刻・早退・無断欠勤はどこまで許されるか?
・日本ヒューレット・パッカード事件・最2小判平24・4・27
・日経ビーピー事件・東京地判平14・4・22
J内部告発
内部告発は正義の実現か、組織・仲間への裏切りか?
・大阪いずみ市民生協事件・大阪地堺支判平15・6・18
K私用メール
職務時間中の私用メールは職務専念義務違反?
・K工業技術専門学校事件・福岡高判平17・9・14
L懲戒と再雇用
過去の懲戒歴を理由に再雇用を拒否することはできるか?
それは実質的に二重処罰ではないのか?
・東京都・都教委事件・最二小判平23・5・30
授業の進め方
本演習では、みっちりと、懲戒処分に関する裁判例の動向と現状についての知識を習得してもらうために、懲戒に関する様々なテーマをゼミの参加者がそれぞれ分担し、関連する裁判例(事実の概要と判旨)を3つ程度まとめ、判例の傾向や学説の動向などについて検討したものを報告し、議論をします。
判例のチョイスやテーマ(ただし懲戒に関連すること)は教員のほうからいくつかピックアップしますが(必要最小限の重要判例は指定します)、参加者の関心に合わせて(例えば、公務員関連事件など)、参加者が自主的にテーマ設定と判例のチョイスを行っていただくのがベターです。
報告が当たっていない方についても、毎回、教材に目を通し、各個人の意見を持って出席していただきたいと思います(報告に対して必ず質問してください)。報告者でない方は、労働者側・使用者側の代理人になったつもりで、当事者の立場にたって考えてみてください(報告者は裁判官あるいは研究者の立場で)。
教員は極力発言を控えるよう努力します。沈黙がうまれないように、報告者だけでなく、参加者も積極的に発言してください。
具体的な進め方(グループ報告か個人報告かなど)は、参加メンバーが確定してからご相談したいと思います。
基本的に、各自の報告を踏まえてゼミ論集を編集することを予定しています。
なお、ゼミの議論を深めるために、所定の授業時間にかかわらず議論を続けることがありますので、あらかじめご了承ください。
教科書・参考書等
参考図書
野田進編『判例労働法入門(第2版)』(有斐閣)
野川忍監修『職場のトラブル解決の手引き(新訂版』(労働政策研究・研修機構)
村中孝史=荒木尚志編『労働判例百選(第8版)』(有斐閣)
成績評価の方法・基準
出席状況、報告(レポート)内容、討論参加状況等によって、総合的に評価します。演習での学習は毎回出席することが前提となりますので、出席状況は特に重視します。毎回、報告担当者がゼミ参加者に担当テーマを講義するつもりで、しっかり準備してください。
その他(質問・相談方法等)
@オフィスアワーの時間にご質問・ご相談をお受けいたします。オフィスアワー以外でもかまいませんが、その場合、十分に時間がとれない場合があります。メールでお問い合わせいただいても結構です。@law.kyushu-u.ac.jpの前に、yamaをつけてください。
A授業の進め方でも書いています通り、ゼミの議論を深めるために必要と思われる場合あるいは諸般の事情を考慮して、所定の授業時間を過ぎても議論を続けることがあります。ゼミの終了時間が多少遅くなる場合があることについてご理解ください。
B平成25年度のゼミ開始前の段階で必要に応じて連絡をとることがあります。「志望理由書」には、メールアドレス(通常の連絡が取れるもので、携帯のアドレス等)を丁寧に(わかるように)記入しておいてください。
過去の授業評価アンケート