労働法演習

最終更新日:2017年8月21日

授業科目名
労働法演習
標準年次
3・4
講義題目
雇用における格差・差別を考える
開講学期
通 年
担当教員
山下 昇
単位数
4単位
教  室
304
科目区分
展開科目
履修条件
 絶対条件ではありませんが、前期に開講される労働法の講義を履修することが望ましいのはいうまでもありません。労働法全体の基礎知識を身につけておくことにより、深い理解や活発な議論ができると思います。
 疑問に思ったことをゼミの場できちんと発言しようという意欲を持っていること(間違っていたり、見当違いの意見でもケッコウです)。
 ゼミ論を執筆する強い意欲を有すること(論文を書くのが嫌だという方はご遠慮ください)。
授業の目的
 本ゼミでは、雇用における格差・差別を取り上げます。雇用の世界には、様々な格差・差別があります。男女差別をはじめとして、法律で禁止されたものから、なんとなく世の中に受け入れられている(実際にはあまり意識されない)ものまで、実に多様です。公務員等に見られる学歴を基準とした採用区分や年齢制限、年齢のみを理由として雇用を喪失する定年退職制度など、再考してみてはどうでしょうか。
 1年間の報告や議論を踏まえて、最後はゼミ論をまとめます。
授業の概要・計画
 具体的に、差別事由による類型として、性別による差別、雇用形態(正規・非正規)による差別、国籍・人種・民族による差別、出身地・門地による差別、思想・信条・宗教・嗜好による差別、障害による差別、病気による差別、年齢による差別、容姿による差別、学歴・経歴による差別、家族構成による差別、血液型による差別、妊娠・出産・育児を理由とする差別、組合活動を理由とする差別、偏見に基づく差別などがあります。
 差別方法の類型として、募集・採用差別、賃金差別、人事処遇(査定・配置・昇格・降格等)差別、解雇・退職における差別、再雇用差別、ハラスメントなどがあります。
 差別の規制や救済として、アファーマティブ・アクション、クォータ制、違反者に対する罰則、不法行為に基づく損害賠償、格差を是正した上での地位確認などがあります。
 以上のような雇用における格差・差別問題について法学的な観点から総合的に研究することにします。
授業の進め方
 毎回、ゼミ受講者に報告をしてもらい、議論します。
 前期は、雇用格差・差別問題を検討するための基礎体力(基礎知識)や技法を涵養するために、判例研究を通じて、労働法全般について勉強します。具体的には以下のような判例を考えています。また、最新判例なども取り扱いながら、判例研究のやり方・作法・楽しみを学びたいと思います。

思想信条による採用差別
 【三菱樹脂事件】最大判昭48・12・12
B型肝炎罹患を理由とする内々定取消
 【B金融公庫事件】東京地判平15・6・20
HIV等の感染を理由とする看護師の就労制限
 【社会医療法人甲会事件】福岡地久留米支判平26・8・8
うつ病による勤務支障を理由とする普通解雇
 【店舗プランニング事件】東京地判平26・7・18
国籍等を理由とする内定取消
 【日立製作所事件】横浜地判昭49・6・19
性別・コース別人事
 【兼松事件】東京高判平20・1・31
性別を理由とする賃金(手当)の格差の違法性
 【フジスター事件】東京地判平26・7・18
妊娠による勤務軽減と降格
 【広島中央保健生活協同組合事件】最1小判平26・10・23
育休取得者に対する不利益取扱い
 【コナミデジタルエンタテイメント事件】東京高判平23・12・27
正規・非正規の賃金格差
 【ニヤクコーポレーション事件】大分地判平25・12・10
性同一性障害と懲戒処分
 【S社(性同一性障害者解雇)事件】東京地決平14・6・20
容姿(茶髪)を理由とする解雇
 【東谷山家事件】福岡地小倉支決平9・12・25
未婚の出産を理由とする解雇
 【大阪女学院事件】大阪地決昭56・2・13
セクシュアルハラスメント
 【東京セクハラ(T菓子店)事件】東京高判平20・9・10
セクハラ発言を理由とする懲戒処分の有効性
 【海遊館事件】最1小判平27・2・26
罰ゲームの不法行為(ハラスメント)該当性
 【K化粧品販売事件】大分地判平25・2・20

 後期は、ゼミ生各自で、雇用格差・雇用差別に関する具体的なテーマを選択して、個別報告を行います。判例や統計データなどを駆使して、日本の雇用格差・雇用差別の現状を分析し、外国法の比較なども行いながら、検討してもらいます。具体的なテーマは、授業の目的のところに上げている内容について、ゼミ生の希望を調整しながら、各自のテーマを設定します。
 1年間の報告を踏まえて、最後はゼミ論をまとめます。
 ゼミの進行は、学生主体とし、教員は極力発言を控えます(最後に総括的なコメントをするにとどめるようにしたいと思います)。
教科書・参考書等
労働法の参考文献(新書)をあげておきます。
川人博『過労自殺(第2版)』岩波新書
水町勇一郎『労働法入門』岩波新書
竹信三恵子『家事労働ハラスメント』岩波新書
赤石千衣子『ひとり親家庭』岩波新書
竹信三恵子『ルポ賃金差別』ちくま新書
濱口桂一郎『日本の雇用と労働法』日経文庫
大内伸哉『雇用改革の真実』日経プレミアシリーズ
今野晴貴『ブラック企業』文春新書
中野円佳『「育休世代」のジレンマ』光文社新書
成績評価の方法・基準
出席状況、報告(レポート)内容、討論参加状況等によって、総合的に評価します。演習での学習は毎回出席することが前提となりますので、出席状況は特に重視します。毎回、報告担当者がゼミ参加者に担当テーマを講義するつもりで、しっかり準備してください。
その他(質問・相談方法等)
@オフィスアワーの時間にご質問・ご相談をお受けいたします。オフィスアワー以外でもかまいませんが、その場合、十分に時間がとれない場合があります。メールでお問い合わせいただいても結構です。@law.kyushu-u.ac.jpの前に、yamaをつけてください。
A授業の進め方でも書いています通り、ゼミの議論を深めるために必要と思われる場合あるいは諸般の事情を考慮して、所定の授業時間を過ぎても議論を続けることがあります。ゼミの終了時間が多少遅くなる場合があることについてご理解ください。
B2015年度のゼミ開始前の段階で必要に応じて連絡をとることがあります。「志望理由書」には、メールアドレス(通常の連絡が取れるもので、携帯のアドレス等)を丁寧に(わかるように)記入しておいてください。
C参考図書に挙げている本のうち、関心のあるものについて、最低1冊は目を通しておいてください。
Dなお、野田先生の労働法ゼミが2015年度をもって終了するため、2015年度の野田ゼミ・新3年生(2016年度新4年生)の希望者については、2016年度の山下の労働法ゼミで受け入れる予定です(希望者多数の場合は、必要に応じ選考いたします)。予めご了承ください。
過去の授業評価アンケート