労働法演習

最終更新日:2017年8月21日

授業科目名
労働法演習
標準年次
3・4
講義題目
解雇と退職
開講学期
通 年
担当教員
山下 昇 (YAMASHITA N.)
単位数
4単位
教  室
403
科目区分
展開科目
使用言語
Japanese
科目コード
LAW-LAW3911J
Course Title
Labor Law Seminar-Dismissals and Labor Relation Termination
Course Overview
We argue about dismissals and labor relation termination by this seminar.
履修条件
 絶対条件ではありませんが、労働法の講義を履修する(履修していた)ことが望ましいのはいうまでもありません。労働法全体の基礎知識を身につけておくことにより、深い理解や活発な議論ができると思います。
 疑問に思ったことをゼミの場できちんと発言しようという意欲を持っていること(間違っていたり、見当違いの意見でもケッコウです)。
 ゼミ論を執筆する強い意欲を有すること(論文を書くのが嫌だという方はご遠慮ください)。
授業の目的
 本ゼミでは、解雇と退職の問題を取り上げます。 労働者にとって、解雇や退職は、労働者の経済的基盤そのものを喪失させ、労働者とその家族の生活に甚大な経済的影響を与えます。また、職を失うことは、労働者の技能の維持・向上の機会や自己の創造活動の場を奪うだけでなく、それまで築き上げてきた職場での人間関係をも断絶させ、労働者のアイデンティティーに対する重大な危機をもたらします。さらに、マクロ的に見ても、大量の失業者の発生や急速な失業率の上昇は社会不安や治安悪化の要因ともなることから、社会政策としても、解雇の規制や失業後の生活保障は、国家にとって重要な課題となります。 そこで、本ゼミでは、解雇や退職をめぐる諸問題について、法的な観点だけでなく、経済的な視点からも、幅広く検討することにします。 1年間の報告や議論を踏まえて、最後はゼミ論をまとめます。
授業の概要・計画
 解雇(懲戒解雇、普通解雇、整理解雇)のほか、公務員の労働契約終了(懲戒免職、分限免職、条件付任用の不採用)など様々であり、内定取消や試用期間満了後の本採用拒否、雇止め、辞職(合意解約や労働者による一方的解約)も、法的な意味では労働契約の終了です。解雇は、使用者による一方的な労働契約の解約であり、労働紛争の主たる原因となります。また、辞職の場合でも、労働者が真に同意しているかは、例えば、マタハラやパワハラでしぶしぶ退職している場合もあるかもしれません。また、実際に失業した場合、その生活保障や再就職支援は、国家(公務員)や地方(公務員)の責務として重要な課題となります。解雇等の法規制や政策的支援の在り方は、経済学的にみれば、市場の活性化、国際間競争力の向上等の観点から重要であり、そこでは必ずしも、個人の人権(勤労権等)とは異なる観点が存在します。本ゼミでは、こうした解雇・退職・失業をめぐる諸問題について、法学だけでなく、経済学等の視点から総合的研究することとします。
授業の進め方
 毎回、ゼミ受講者に報告をしてもらい、議論します。報告は、基本的にパワーポイントを使用して報告してもらいます。
 前期は、解雇・退職の問題を検討するための基礎体力(基礎知識)や技法を涵養するために、実態の把握をしたうえで、法学的な思考と経済学的な思考あるいは労働者保護の視点と使用者の会社経営の視点から、参考文献などに基づいて解雇の問題について勉強します。
 そして、比較的最近の裁判例を検討しながら、労働法全般について勉強します。判例研究のやり方・作法・楽しみを学びたいと思います。具体的な裁判例は、適宜、シラバスで公開いたします。
 後期は、ゼミ生各自で、解雇・退職・失業等に関する具体的なテーマを選択して、個別報告を行います。判例や統計データなどを駆使して、日本の解雇・退職法理や雇用保障政策の現状を分析し、外国法の比較なども行いながら、検討してもらいます。具体的なテーマは、ゼミ生の希望を調整しながら、各自のテーマを設定します。1年間の報告を踏まえて、最後はゼミ論をまとめます。
 ゼミの進行は、学生主体とし、教員は極力発言を控えます(最後に総括的なコメントをするにとどめるようにしたいと思います)。
〈判例研究で検討する裁判例〉
●小規模事業所におけるコミュニケーション不足(業務不適格)を理由とする解雇
【南淡漁業協同組合事件】大阪高判平24・4・18労働判例1053号5頁
●大学教授に対する適格性欠如を理由とする解雇
【早稲田大学(解雇)事件】東京地判平26・12・24労働判例1116号86頁
●精神的不調による休職期間満了後の退職扱い
【日本ヒューレット・パッカード事件】東京地判平27・5・28労働経済判例速報2254号3頁
●職種限定の有期労働契約の労働者に対する雇止め
【日本レストランエンタプライズ事件】東京高判平27・6・24労働経済判例速報2255号24頁
●条件付採用教員に対する免職処分
【東京都・都教委(都立E中学)事件】東京地判平26・12・8労働判例1110号5頁
●大学教員に対する心身の故障を理由とする休職期間満了に伴う退職扱い
【F大学事件】福岡高判平成26・3・13労働経済判例速報2208号3頁
●私生活上の非行を理由とする諭旨解雇
【東京メトロ(諭旨解雇・仮処分)事件・東京地決平26・8・12労働判例1104号64頁
●小規模事業所における能力不足等を理由とする解雇
【海空運健康保険組合事件・東京高判平27・4・16労働判例1122号40頁
●退職金を不利益に変更する就業規則に対する同意の有効性
【山梨県民信用組合事件事件】最2小判平成28・2・19判例集未登載
●非正規公務員の退職金請求権の有無
【中津市(図書館職員)事件】最3小判平成27・11・17判例集未登載
教科書・参考書等
 参考文献を挙げておきます。
神林龍編著『解雇規制の法と経済』日本評論社
福井秀夫大竹文雄編著『脱各社社会と雇用法制』日本評論社
大内伸哉『解雇改革』中央経済社
荒木尚志ほか編著『雇用社会の法と経済』有斐閣
 参考になる新書も挙げておきます。
川人博『過労自殺(第2版)』岩波新書
大内伸哉『雇用改革の真実』日経プレミアシリーズ
大内伸哉『雇用はなぜ壊れたのか』ちくま新書
今野晴貴『ブラック企業』文春新書
中野円佳『「育休世代」のジレンマ』光文社新書
大竹文雄『競争と公平感』中公新書
中窪裕也・野田進『労働法の世界(第11版)』(有斐閣、2015年)
森戸英幸『プレップ労働法(第5版)』(弘文堂、2016年)
浜村彰・唐津博・青野覚・奥田香子『ベーシック労働法(第6版補訂版』(有斐閣、2016年)
成績評価の方法・基準
出席状況、報告(レポート)内容、討論参加状況等によって、総合的に評価します。演習での学習は毎回出席することが前提となりますので、出席状況は特に重視します。毎回、報告担当者がゼミ参加者に担当テーマを講義するつもりで、しっかり準備してください。
その他(質問・相談方法等)
@オフィスアワーの時間にご質問・ご相談をお受けいたします。オフィスアワー以外でもかまいませんが、その場合、十分に時間がとれない場合があります。メールでお問い合わせいただいても結構です。@law.kyushu-u.ac.jpの前に、yamaをつけてください。
Aゼミの議論を深めるために必要と思われる場合あるいは諸般の事情を考慮して、所定の授業時間を過ぎても議論を続けることがあります。ゼミの終了時間が多少遅くなる場合があることについてご理解ください。
B2016年度のゼミ開始前の段階で必要に応じて連絡をとることがあります。「志望理由書」には、メールアドレス(通常の連絡が取れるもので、携帯のアドレス等)を丁寧に(わかるように)記入しておいてください。
C参考図書に挙げている本のうち、関心のあるものについて、最低1冊は目を通しておいてください。
事前/事後学修