法社会学

最終更新日:2017年8月21日

授業科目名
法社会学
標準年次
3・4
講義題目
法社会学
開講学期
後 期
担当教員
江口 厚仁 (EGUCHI A.)
単位数
4単位
教  室
101
科目区分
展開科目
使用言語
Japanese
科目コード
LAW-LAW3141J
Course Title
Sociology of Law
Course Overview
1. Introduction to Sociology of Law
2. Legal System and Society (Case Studies)
3. Interaction between Social Theory and Legal Theory
4. Knowledge and Practice to Coexist with Legal System


履修条件
 特にありません。

 法律学/法解釈学が不得手な学生さん(法学部生/他学部生を問いません)であっても、特に支障はありません。ただし、日頃から現代社会への問題関心を持ち、いわゆる社会科学的/社会学的センスをある程度は備えていないと、議論の展開に乗り損なう可能性がありますので、この点についてはあらかじめ覚悟して履修してください。

 もちろん現行法や法律学の知識をある程度は備えているほうが、授業を深く(自分自身に引きつけて)理解する上では有益ですが、「正しい法学部生」らしく「法解釈学だけは得意です」という人は、かえって戸惑うかもしれません。実は、その戸惑いこそが有益なのですが、「即効性の正解」が約束されていない問いを悩むことなど「時間の無駄」と考えてしまうタイプの人は、ご遠慮いただくのが賢明でしょう。
授業の目的
 法社会学は、いわゆる実定法解釈学とは異なる視点/異なる方法を駆使して、法現象・規範現象を観察・分析・理論化します。法社会学的な観察法(レンズ)を通して眺めると、ふだん見慣れているはずの「現実」が、実はとても複雑・不可思議な「仕掛け」の上に成り立っていることが見えてきます。「非常識にならない程度に常識を疑う!」、まずはこの「天の邪鬼の思考」の醍醐味を実感していただければと思います。

 あえてそうした「非常識な視点」から出発する「ねらい」は何でしょうか? 私たちの社会が一筋縄ではいかない「多重構造」をもつことへの感度を高めるために、です。

 私たちの生きている社会は、決して「自明」でも「単純」でもありません。もしもそれが単純明快に見えているとすれば、それを自明視させている「社会的仕掛け」こそが、あらためて問われなければなりません(ひょっとすると観察者自身の「レンズの解析度」が低い=オツムが単純である可能性や、知らず知らずのうちに観察者の視野を縛る権力作用が働いている可能性などを含めて、です)。こうした社会の複雑さに応答する柔軟な思考のスキル、問題解決にあたって多様なオプションの可能性をさぐる構想力、思考の「引き出し」をできるだけ多元化しておくこと…、これらをみなさん自身が主体的に育んでいくために、ちょっとしたお手伝いをすること、これが本講義の主たる目的です。 

 目前の効用や有用性とはひと味違う次元から、社会現象をよりラディカルに思考すること、あえて「どうしてそこまで考えなくてはならないのか」という地点まで思考を追い込んでみること、そうした知的/時間的に贅沢な機会(「レジャー」とは、もともとそういう意味です)を持てることこそ「大学生の特権」だとすれば、この講義は「むやみに贅沢な時間=知的レジャー」への誘い、ということになるでしょう。例年、「お勉強」の谷間に置かれた「知的休憩時間=オアシス」という意味でのレジャーを楽しんでくれている学生さんも少なからずいるようですが、自分の頭を使ってもう「半歩」踏み出せば、ただの娯楽に終わらない世界が開かれるはずです。

 ことほど左様に、本講義の目標は抽象的(禅問答風!?)です。講義を聴き終えた時点で「多角的でフレキシブルな思考」なるもののノリを、みなさん自身がどのくらい「実感」できているかが評価のポイントとなります。

 ですので、法学部ディプロマ・ポリシーとの関係で言えば・・・
1.専門知識・技能の観点では、暗記的情報の蓄積は、特に重視していません。授業では「多様な悩み方の方法論」を、みなさんに紹介しますので、それらを使って実際にどのくらい「あーでもない、こーでもない」と思考を深められるかがポイントです。
2.汎用的能力・態度の観点では、いきなりそんなものが身につく筈がありません。複合的観点から問題を考え抜くという思考態度=ノリは、最終的にはみなさん自身が、今後の人生の中で折にふれて実践し続ける課題として、未来に向かって開かれているのです。本講義は、そのためのちょっとしたヒントを提供する場となれば、さしあたりそれで十分です。
授業の概要・計画
 上記の目的設定との関係で、全体に「抽象理論」の比重が高くなりがちですが、日常的事例や時事的話題を参照しながら、できるだけ具体的なイメージが湧くように心掛けて、講義を進めていきたいと考えています。

(0)イントロ:法社会学的に世界を観察するノリを体感していただくために、日常生活の中の些細なルールやルーティンな行動を題材にしながら、それらを斜め/裏側から観察する「思考実験」を試みます。
 例えば、私たちが「ルールに従う」「法を守る」とは、現実にはどういう事態を指し示しているのか、「些細なルール違反」が引き金となって生じるフリーライダー問題を「ルールや制度」の力で解決しようとするとき、どんな軋轢が生じるか、といった問題について考えてみます。(5コマ程度)

(1)法社会学事始め:私たちが、あるいは法律家/法学が、法律問題について語るときの先行判断(暗黙のうちに「先取り」している「背後仮説」)について検討し、それらが固有の意義と射程をもつことを示します(法システムの「内的多元性」問題)。
 例えば、法の客観的解釈・法の妥当性/正当性/実効性・法の支配・先例拘束性といった法システムの基礎概念を、社会学的観点から再検討します。(5コマ程度)

(2)法社会学西遊記:法システムが、他の(外部の)社会領域と接触するとき何が起こるか、そこで生じる「衝突」が、どのような調整メカニズムによって処理されているか、といった論点について考えます(法システムの「外的多元性」問題)。
 例えば、法とモラル、法とジェンダー、法と暴力/権力、法と先端科学技術(リスク)、法とマスメディア、法と経済/市場、法と市民社会的公共性、法と愛といったテーマをつうじて、「法的思考」のもつ固有の枠組みと、その射程について考察します。
 このパーツ(第3クール)が、いちおう講義全体のコア部分に当たります(毎回1話読み切り方式で10〜15コマ程度)。

(3)法社会学今昔物語:法社会学の先達たちは、法現象の何に注目し、それをどのように語ってきたか、そうした先行理論の現代的意義は何か、という論点を中心に論じます(法社会学説史)。
 あわせて法的/法学的思考に固有の構造特性と、その社会的機能は何かという問題を、戦後日本の「法学方法論争」の歴史を振り返りつつ論じます(法学方法論再考)。(5コマ程度)

(4)大団円:複雑多様な「現実」を前に、今後、法はいかなる対応策をとりうる/とるべきなのか、「法と上手に付き合う」とはどういうことか、私たちはいかにして「法と共存」してゆけばよいのか、といった問題群について、本講義の締めくくり(総括)の意味を込めて、最後にもう一度考えてみます。(5コマ程度)
授業の進め方
 事前に「レジュメ」「資料」を配布し、それに沿って(ただし頭から尻尾まで忠実に順を追って、という形にはなりません)講義します。なるだけ「1コマ1話完結型」で進めていく予定にしていますが、「路地裏散歩」の誘惑に負けて、話がすぐにわき道にそれるため、めったに当初の予定通りには進行しなくなるのが悩みの種です。いまどきの学生さんの中には、講義がレジュメの順序に沿って予定通りに進行しないと苛立つ諸君もおられるようですが、多くの場合、散歩するならメインストリートよりもパサージュぶらぶら歩きの方が、遙かに楽しいに決まってるでしょう!?、という言い訳をさせていただきます。なお、話の中に突然出てくる各種サブカル系の話題については、その都度、意味がわからなくても、議論の本筋さえ理解できていれば何の問題もありませんのでご安心下さい(よく知らない話題を振られてちょっと寂しい思いをする人がいるかもしれませんが、その点は何卒ご容赦下さい)。

 なお、この講義では「学習情報量」とその「正確な蓄積」(いわゆる「暗記作業」)はさほど意味を持ちません。定期試験直前に話題になる「試験範囲」なるものとも全く無縁です。むしろポイントは、ある具体的なデータが与えられたときの「情報処理の形式」を複合化すること、言い換えれば「物事を複眼的に観察するノリと勘どころ」を磨くことにあります。

 言葉の真の意味での「実用性」とは、「即効性(いますぐお役に立ちます)」を標榜する「小手先のノウハウ」には還元できない、この種の「実践的思考様式」に裏打ちされたものでなくてはなりません。「正しい問題解決」のためには、まずもって「正しい悩み方」が問われなくてはならないのです。

 まずはみなさんに普段はあまり意識しないような(日常的で些細に見える)論点について「悩ましく」なっていただくことが先決です。そしてその悩ましさを、どう言葉で表現し、どのような方向で考えていけばよいのだろうかと、さらにみんなで悩んでいきましょう。

 この講義には遺憾ながら「正解」というものがありません。この点はあらかじめ十分にご理解の上、受講の選択をお考えいただければと思います(「正解」なき悩みなど「自己満足」にすぎない、という考えの持ち主にこそ聴いて欲しい講義なのですが、そのタイプの人には話の趣旨が一番伝わり難い/こちらの主張を正確に理解してもらえない、というパラドクスがつきまとっています)。
教科書・参考書等
 教科書は特に指定しません。関連する文献・資料については、講義やレジュメをつうじてその都度紹介します。

 なお、江口・林田・吉岡編『圏外に立つ法/理論』(2012年、ナカニシヤ出版)を副読本として指定します。具体的な使い道は講義の中で(特に初回授業で)説明します。
成績評価の方法・基準
 定期試験(レポートを含む)および出席状況により評価します。

 いずれも「一風変わった方式」を採用しますので、具体的な評価方法については、開講初日に「プリント」を配布して、口頭で詳しく説明いたします。お聞き逃しのないようお願いします。

 なお、最近流行の「成績評価の客観化」に向け、評価項目を細分化した上で、それぞれを数値化(フィギュア・スケートのように点数配分/比率化)し、みなさんに告知しておくという形式は、この講義の目的と全く整合しませんので、採用することができません。技術の上手/下手にかかわらず、「レディメイドで安直な結論」に飛びつきたくなる欲望をこらえ、「自分なりの方法論」に沿って「徹底的に頑張って考え抜こうとする構え」をこそ尊重したいと考えます。その際、暗記情報量の多寡は大した問題ではありませんので、定期試験は「一切持ち込み可」で実施します。

 そんな抽象的な基準で評価ができるのか? その疑念はもっともではありますが、とりあえず授業を聴き、関連文献にあたり、自分の頭で考え抜こうと頑張った答案からは、一目瞭然のオーラが立ちのぼってくるものです。書き手の学生さんにも達成感が生まれますし、それは読めば判るのです。
その他(質問・相談方法等)
 特に「オフィスアワー」は設定しません。適宜、質問・相談に応じますので研究室を覗いてみて下さい(時間を要するものについては事前にメールでアポを入れてもらえると助かります)。

 法学の周辺領域・学際領域への知的好奇心が旺盛で、抽象思考があまり苦にならず、そのくせ「不思議な現実感覚」も併せ持っている「アイロニカルなお調子者」(この「お調子者」とは「軽薄」とか「チャラい」とかいう意味では全くありません!)に向いていると思います。もちろん、もっと一般的に「柔らか頭」のトレーニングをしてみたい人にもお奨めです。
事前/事後学修