法社会学演習

最終更新日:2021年3月10日

授業科目名
法社会学演習
標準年次
3・4
講義題目
日常生活空間における法/ルールの動態
開講学期
通 年
担当教員
江口 厚仁(Eguchi A.)
単位数
4単位
教  室
演習室2
科目区分
展開科目
使用言語
Japanese
科目コード
Course Title
Sociology of Law (Seminar)
Course Overview
Law, Ethics and Convention in Daily Life, Sociological Approach.
履修条件
@履修条件は特にありません。ミクロ/マクロ(「日常的な対人関係をめぐるささやかな問題」から「国家・市民社会・世界社会にかかわる大きな問題」まで)を問わず、さまざまな社会現象/社会関係/社会問題への「知的好奇心」が旺盛な学生さん向きかな、とは思います。

A学問の性質上、いわゆる「実定法解釈学」や「判例」を真正面から議論することは滅多にありません。ですので、実定法系科目が比較的不得手な人でも特に支障はありません(それが得意な人には向かない、と言っているわけではありませんが、実定法解釈学を「本気」で学びたいのなら、他の然るべきゼミを選択するのが賢明な対応ですね)。他方で、「理詰めの思考」が苦手な人には不向きかもしれません。ゼミ討論の基調は、法学というよりは社会学/社会哲学等の広義の「社会理論」を駆使したものになりますので、議論のフレイムや問題関心におけるミスマッチ防止のためにも、この点についてはあらかじめ十分にご注意下さい。

B「参考文献」等がすぐに手に取れることを理由に研究室で開講するため、登録人数をあまり増やせませんが(20人だと入りきれないため)、新3年生はもちろん、新4年生の新規参加者も歓迎いたします。ただし、(めったに起こりませんが)希望者が想定外に多かった場合は、ご希望に添いかねる場合もあり得ますので、登録申請(特に第1次募集で、いわゆる「人気ゼミ」ばかりを選択するのはリスクを伴うかも、です)にあたっては、この点も十分に考慮に入れてお考え下さい。

C例年、学部・学年を越えて、サブゼミ参加者に加え、単位不要のオブザーバー参加者・不定期飛び入り参加者が出現します。今年度も、大いにこれを歓迎いたします。
授業の目的
 議論の基本的スタンスは、みなさんが日常生活を送る中で、あるいはネットやメディアを眺めていて「ふと疑問に思った出来事/現象」を手掛かりに、現代日本社会の「規範状況」(広義の法・ルール・制度・倫理・慣行をめぐる問題群)を、社会システム理論/社会学等の方法論を用いて、複眼的に観察・分析・批判していくことにあります。

 観察・分析・批判にあたっては、それが単なる「印象論」に終始するのはダメですから、最低限の「データ」収集と、それを論理的に料理するための「理論フレイム」の修得が必須です。勿論、いきなりそれを達成するのは無理なので(なにしろ、通常の「法律学の方法論」とは決定的に異質な思考モードですから)、ゼミでの議論を通じて、いわばオンザジョブ方式で徐々にトレーニングしていきましょう。

本ゼミの「基本的な目的(効用?)」は以下の3点です。

@目先の「実用性」とはひと味違う次元で「知的基礎体力としての柔軟で実践的な思考力」を磨くこと、

A参加者各自が、それぞれ自分自身の「具体的研究テーマ」を設定した上で、文献・資料・データを収集・分析するためのノウハウを習得すること、

Bそれを「論文」なり「リサーチペーパー」なりの形にまとめてプレゼンテーションする技術と度胸を身につけること。

 大学の(少なくとも社会科学系学部における)高年次ゼミナールの目的は、(資格試験等の「実用的目的」を度外視すれば)ほぼこれらの点に尽きる、と言えます。ですから、おもに依拠する方法論が「法解釈学ではない」ことを除けば、特に「目新しい目標」を掲げているわけではありません。しかしこれは「言うは易く、行うは難し」な課題です。
授業の概要・計画
 原則として前期/後期とも、第1回目のゼミの場で、参加者の合議によりその学期の大まかな方針とスケジュールを立てます。

 研究テーマについては、例年通り、参加者各人の具体的な問題関心に応じて、現代日本社会や法システムのはらむ問題状況を、社会システム理論はもちろんのこと、社会哲学/社会理論/法理論、社会学、応用倫理学、社会心理学、公共選択論等の「学際的手法」を用いて観察・分析する思考実験に取り組んでいきます。この大枠の範囲内であれば、具体的にどんな対象/事象/現象を研究テーマとして選ぶかは、参加者各自の自由と自己決定にゆだねます。

ゼミ運営の基本方針は以下の3点です。

@参加者各人(あるいはチーム)が、適宜、自分たちの選んだ研究テーマに関する研究経過・進捗状況報告を行うこと、

A文献資料のみに頼らず、できるだけフィールドワークを組み込んだ調査・研究を計画・実施すること、

B1年間の研究をもとに、最終的に「ゼミ論文(リサーチ・ペーパー形式でも可)」を1本作成すること。

なお、参考として、ここ数年のテーマをランダムに列挙すれば、

*公共空間/web空間のリスク管理と責任問題(SNS空間のマナーと「炎上」問題、ハッシュタグを用いた政治運動、ヘイトスピーチと法的規制、違法行為実況=バカッター問題、容姿を理由とする差別問題、SNSゲームと課金制度など)
*市民的安全/安心管理システムとアーキテクチャー権力(ex.市民防犯パトロール、不審者通報システム、学校・企業における同調化圧力と法的介入の射程、性犯罪と表現規制など)、
*ユース・カルチャーにおける格差問題(ex.スクールカースト、ランチメイト症候群、ひきこもり症候群、宿題代行業の是非など)
*ユースカルチャーの新動向(ex.BL愛好家の精神構造、ネットゲームと課金制度、チケット転売禁止の可否、ハロウィン等に見られる仮装ブーム、女性のスポーツ観戦ブーム、統計的に自己肯定感の低い日本の青少年問題など)、
*同人系コミュニティにおける著作権・表現の自由(ex.二次創作や同人誌の著作権、パーソナル・ジンの特性など)、
*社会的法益と国家刑罰権の射程(賭博・違法ドラッグなど)、
*違法ダウンロードの刑事罰化・厳罰化、
*いわゆる「感情労働」の光と陰、教育公務員の労働条件法制と勤務実態など
*性的マイノリティの人権保障(ex.同性婚・セクシャル・アイデンティティなど)、
*18歳参政権・成人問題
*日本学術会議の会員任命拒否問題、
*マスメディアの未来戦略(ex.スマホ社会と若者の新聞離れ)、
*GO TOトラベルキャンペーンの功罪、
*ベイシックインカム論の射程、
*AI社会の光と影(自動運転自動車、野球審判の機械化、AIを使った個人信用評価システムの是非など)、
などなど、きわめてバラエティに富んだ内容になっています。

 卒業までにゼミ論を最低1本は執筆することが、必須ノルマですので、参加者各位にはそれなりに充実した1年間(2年間)をお約束いたします。
授業の進め方
 事前に準備された年間計画・進行表はありません。すべてはゼミ参加者の合議により、その都度の状況に応じて、ひたすらフレキシブルに運営します。
 年度の終わり(卒業まで)に「ゼミ論」を最低1本、執筆・提出することだけが「共通ノルマ」ですので、あとはそれに向けて各人が自分自身の「研究計画」を責任を持って立案し、それぞれがマイペース(必ずしも「遅い」という意味ではありません!)で準備を進めて下さい。もちろん必要と要望に応じていくらでもお手伝いはしますが、最終的に水を飲むのは「馬」本人であって、私ではありません。この点はくれぐれもご注意下さい。
 以上の原則の下に、ゼミは参加者各人の研究の進捗度に即して自在に/融通無碍に運営されます。

 また、ゼミの時間は、研究発表者の報告を受けて、全員で徹底的に叩き合う「ディベート中心」の議論を目指します。自分のテーマをどこまで掘り下げて論じるかは、原則的に報告者各自の自己決定の問題ですが、安易な「手抜き」をすると「立ち往生」するハメに陥りますのでご注意下さい。また、ほとんど常に「所定の時間内には終了しません」ので、この点についても、あらかじめご了承下さい(とはいえ/それゆえ、用事等で途中退席する自由は保障されています)。
 ゼミでの議論の「パス回し」それ自体は、参加していて楽しいことを保証します。先輩たちのコメントによれば、本ゼミでの議論の経験は「思わぬところ(どこだろう?)」で「なにかと(どんなふうにだろう?)」役に立つことがある、のだそうです。「学知(知的基礎体力)」というのは、そもそも、そういうものなのかもしれませんね。
教科書・参考書等
 全員が必ず携帯すべき「共通テキスト」はありません。この課題図書不在設定を「高価なテキストを買わずにすんで安上がり」と理解した人は参加をご遠慮下さい。むしろ逆です。参加者各位には、自分自身の選んだテーマに即した関連文献・資料を、自己決定/自己責任の原則に基づき、まずは自力でしっかり集めていただきます。なるだけ資料集めには協力しますが、基本は「Do it yourself」の方針でいきますので、この点あらかじめご覚悟下さい。また、そう広くはありませんが、個人的な知り合いルートをたぐれば、ある程度は「フィールド調査」のお手伝いもできるかと思います。

 もちろん参加者からの要請があれば、全員で1冊の本を読み合わせる機会があっても構いません。研究計画上、どうしてもゼミでの文献講読を必要とする場合には、その旨、申し出て下さい。ご希望には最大限添いたいと思います(あまり数が増えると、全員が購入すべき書籍が多数になって辛いかもしれませんが)。なお、ゼミは研究室で行いますので、必要な参考文献については、適宜、本棚を漁ることが可能です。
成績評価の方法・基準
 年度末(ないしは卒業)までに、参加者全員に1〜2年間の研究成果となる「ゼミ論文」あるいは「リサーチ・ペーパー」を提出していただきます(おおむね「200字×50枚」あたりを目処に執筆できれば「まずまず」といったところでしょうか。法学部には卒論がありませんが、せっかくですので卒業までに「大学での学びの成果=虎の皮」を残しておくのも悪くないと思います)。
 言うまでもなく「(小)論文」には「固有の作法」(形式・文体・注の付け方)が存在します。ゼミ論執筆をつうじて、そうした論文作法を習得することも、成績評価云々を越えた意義をもっています。

 成績評価は、平素の議論への参加度/貢献度(50%)と、ゼミ論の頑張り度/出来映え(50%)の総合判断により判定いたします。時間が許せば、年度末に参加者全員による「ゼミ論講評会」(という名の叩き合い)を行うのもアリでしょう。
その他(質問・相談方法等)
 いわゆる「真面目な人」でなくてもOKですが(「必要以上に真面目な人」は、水が合わない可能性が大ですので、あらかじめご遠慮いただくのが「安全」かと思われます)、最低限「やる気だけはある人」でないと困ります。
 ゼミの年間タイム・スケジュールは、参加者相互の合議により自由自在に調整していただいて構いませんので、その都度、自分のやるべきことの「優先順位」を考慮に入れ、メリハリのある「自前の年間計画」をお考え下さい(以上の文章を「やりようによってはいくらでも楽ができる」と読んだ人は、「絶対に」登録申請を「しない」で下さい、迷惑です!!)。
 また、研究計画の実施過程においては、基本的にいつでも相談に応じます。私に空き時間があまりないのが、お互いに不幸な状況ではありますが、ゼミの進行とともに、なんとなく双方のペースがわかってくるはずです。

 ともかく、見た目はアバウトですが、いろいろな意味で「大学らしいゼミ」を目指して楽しく/しっかりやっていきましょう。

 なお、20年度はコロナ騒動のため実施できなくて、かなりストレスが溜まっている状態ですが、例年は、年に数回(かなり頻繁に:笑)、大昔の卒業生/ちょっと以前の卒業生も参加する「お遊び企画」が実施されています。法社会学ゼミの出身者は何故か(必然的に?)「濃い人たち」が多いので、それはそれで盛り上がっている模様です。ちなみに「お遊び企画」の中身は、「場外論争」を柱にしつつも(当ゼミには「大学の壁」という概念が存在しないようで、いつでも/どこでもゼミのような議論が始まってしまいます)、オプション企画として、温泉・地酒・プチグルメ・サブカル、そしてなぜか古墳散策(笑)が付いてきます。リッチでリア充な企画(笑)は一切ありませんので、しみじみとワビサビのわかる人限定、ということで宜しくお願いいたします。21年度は状況が好転して、例年のようなペースが戻ってくることを期待しているところです。
事前/事後学修 教科書の該当箇所の読み込みと授業後の復習。各回4時間相当。