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教育内容・方法

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シラバス

科目名
  • 授業科目名精神医療と法
  • 授業科目名(英語)Psychiatry and Law
  • 標準学年2・3年次
  • 必修・選択の区別選択
  • 単位数2単位
教員名 田瀬 憲夫 ( TASE Norio )
野林 信行 ( NOBAYASHI Nobuyuki )
水野 遼 ( MIZUNO Ryo )
時限 火 , Ⅵ ( 18:30 - 20:00 )
授業の目的 日本の精神科医療は、約14万人とも言われる非任意入院患者を抱え、諸外国に例を見ない閉鎖性があるとされている。その中で今もなお後を絶たない精神科病院における人権侵害事件や不祥事、「社会的入院」に象徴される精神障害者の社会復帰への有形・無形の大きなバリア等々、様々の問題を抱えており、欧米の水準や国連原則「精神疾患を有する者の保護およびメンタルヘルスケアの改善のための諸原則」(1991年12月国連総会決議)に照らしても著しく立ち後れていると言われている。
1987(昭和62)年及び1995(平成7)年の精神衛生法から精神保健法及び同法から精神保健福祉法への転換とその後の法改正によって、精神医療の在り方は、精神障害者の人権を保障しつつ、いかにして適切な医療保護を提供し、精神障害者の社会復帰を図り、障害を持たない者と同等に生活しうるようにするかという基本的方向性が示され、そのための種々の改革が試みられたが、そこで示されている理念と現実の乖離はまだまだ大きいという実情にある。近年、厚生労働省は、「社会的入院」の解消を打ち出しているが、現実には遅々として進んでいない。他方で、精神科医療現場では、「入院中心から地域医療へ」の実現を目指して、様々な取組も行われるようになっている。
このような精神科医療と精神障害者の人権問題についての法律実務家の認識は、長い間、極めて希薄であり、ごく一部の先進的な弁護士らを除いて、これに真正面から取り組むことを怠ってきたと言わざるを得ない。
ところが、民事分野では2000(平成12)年に成年後見制度が発足するとともに、刑事分野では2005(平成17)年の心神喪失者等医療観察法施行により、多くの法律家がこれらの手続を導入口として精神障害者の問題に取り組むことになった。
精神障害者を含む障害者との共生社会の実現は、21世紀のわが国にとって極めて重要な課題であることは言うまでもなく、そのために司法とその周辺領域における法律実務家の果たすべき役割は非常に大きいものがある。
このような見地に立ち、授業では、後記「授業の概要」に記載した四つの観点から、精神科医療と精神障害者をめぐる現行制度の体系と仕組みについての基本的知識を習得するとともに、欧米の実情や国連原則、更には障害者権利条約とも対比しつつ、上記のようなわが国の制度と現状の問題点・課題に対する理解を深め、法律実務家として必須の基礎的素養と具体的実践に直面した場合に適切な対応をすることができるための指針を体得することを目的とする。
履修条件 特になし
到達目標 カリキュラムマップ、到達目標科目対応表及び学修ロードマップを参照のこと。
授業の概要 大別して以下の四つの観点から、精神科医療と精神障害者をめぐる法的・制度的・実践的課題に対する法律実務家としての基礎的素養を体得する。
①精神保健福祉法及び国連原則における精神障害者の人権保障の概要と、同法下での非自発的入院患者の入院及び処遇に対する不服申立制度である精神医療審査会制度の運用及び弁護士による精神障害者の人権相談・援助活動の実情等を確認し、法律実務家の果たすべき役割等を考察する。
②精神障害者による犯罪(触法)行為の刑事責任能力をめぐる司法精神医学上の理論とその適用に関する判例の動向を確認するとともに、問題点を検討する。
③いわゆる触法精神障害者の処遇に関する心神喪失者等医療観察法の制度及び運用を確認し、その審査手続きを通じた精神障害者の人権擁護及びその社会復帰における司法と精神科医療の関わり方についての制度的・実践的課題を考察する。
④民事・家事等の事件において生起する精神障害者の意思能力の問題、精神障害者の自傷・他害事件に対する医師・病院や保護者らの責任について、具体的な判例等を素材とするケース研究により学習する。
授業の概要(英語) This course examines Psychiatry and Law.
授業計画 第1回 精神科医療と法の交錯・・・オリエンテーション ・精神障害者を取り巻く現状(田瀬)
第2回 精神保健福祉法に至る法制史 (野林)
第3回 精神科医療の基礎知識① (野林,精神科医)
第4回 精神科医療の基礎知識② (野林,精神科医)
第5回 精神保健福祉法の概要 (野林)
第6回 精神保健福祉法の概要 (野林)
第7回 精神障がい者が地域で生きるために (野林,障がい者基幹相談支援センター相談支援員)
第8回 触法精神障害者問題の歴史と現状(水野)
第9回 触法精神障害者問題論1(刑事責任能力概論等) (水野)
第10回 触法精神障害者問題論2(心神喪失者等医療観察法概論等) (水野)
第11回 事例検討1(判例を題材にした事案を取り扱う予定)(水野)
第12回 事例検討2(実務に即した模擬事例をベースにケーススタディを行う予定)(水野)
第13回 精神科医療と民事法の交錯 ~医療事故を中心に~ 1(田瀬)
第14回 精神科医療と民事法の交錯 ~医療事故を中心に~ 2(田瀬)
第15回 事例検討(田瀬)
授業の進め方 導入及び基本的な制度解説については、講義形式をとらざるを得ないが、法律実務家となった場合に、具体的な案件に直面して自ら調査・検討して考える力を培うため、適宜、学生に予め調査・検討した結果を発表させ、これをめぐって他の学生との討議を行い、その過程で、教員が随時コメントをして議論の方向性を指導するとともに、最終的なとりまとめをするという対話方式も取り入れることがある。また、できる限り具体的事例を素材にしたケース研究を重視することとする。また、必要に応じて、精神科医師の助言を検討する。
なお、各回の授業は上記授業計画を基本とするが、「精神医療と法」の分野が極めて多岐にわたっていることから、学生の関心対象や理解度等をも勘案して、変更があり得る。
教科書及び参考図書等 事前にレジュメ等の資料及び精神保健当番弁護士ハンドブック(福岡県弁護士会)を配布する。

参考文献
『精神障害法』(池原毅和/三省堂/図書室備付け)
『精神科医療と法』(中谷陽二/弘文堂/図書室備付け)
『専門医がやさしく語るはじめての精神医学』(渡辺雅幸/中山書店/図書室備付け)
『精神保健福祉法詳解(四訂版)』(精神保健福祉研究会/中央法規/図書室備付け)
『専門医のための精神科臨床リュミエール1・刑事精神鑑定のすべて』(五十嵐禎人/中山書店/図書室備付け)
『精神医療と心神喪失者等医療観察法』(ジュリスト/有斐閣)
『精神医学と法』(臨床精神医療学講座22/中山書店/図書室備付け)
『司法精神医学・全6巻』(中山書店/図書室備付け)
『Q&A心神喪失者等医療観察法解説(第2版)』(日本弁護士連合会)
『医療観察付添人の基礎と実践』(九州弁護士会連合会)
『自由を奪われた精神障害者のための弁護士実務』(現代人文社)
試験・成績評価等 12回以上出席した者について、出席、講義における積極性、発言内容、聴講態度等評価点(配点40%)及び、3人の各教員毎に出される課題に対する小レポートにおける課題点(配点60%)によって得られた成績を基礎に、水準に達していると判断した者について相対評価を行う。

本講で対象とすべき分野は,本来の精神医療と精神保健福祉の分野のほか,刑事法及び民事法と比較的広範かつ多角的な分野に及んでおり,1回の筆記試験でこれらを網羅して考査することは困難である。そのため,試験に代えて分野ごとにレポート提出を実施して,各レポートの評価は筆記試験同様の採点項目を設けて厳正に行うこととしている。
事前学習 事前配布資料に目を通しておくこと。
課題レポート等 3人の各教員から小レポートのための課題を出す。
*独創性があり、創意工夫の見られるレポートに対しては高評価を行う。法令や判例の細かい知識を求めることはしない。コピー・アンド・ペーストについては厳正に対処するので、文献等の引用については標準的なルールに則った記載をするなど留意してほしい。(水野)
オフィスアワー 授業終了時に質問を受け付ける。
その他 特になし。