九州大学 法学部 法学部ニュース 第36号 2023年度 学位授与式

2024年3月25日、2023年度の九州大学の学位記授与式が執り行われました。
卒業者は法学部192名、法学府51名でした。(9月卒業・修了者含む)

2021年度 学位記授与式(卒業式)

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総代挨拶 宮司 佳歩

 不安と混乱のなか幕を開けた大学生活もあっという間に4年が経ち、ついに卒業の日を迎えました。いわゆる「コロナ世代」と呼ばれる私たちは、大学生活の話をするとかわいそうに思われがちですが、振り返ると本当に楽しく、充実した4年間でした。
 私たちの大学生活は「入学式の中止」、「授業がいつ始まるかわからない」からのスタートでした。5月にオンライン授業が始まった時には、授業を受けることができる喜びでいっぱいでした。後期からは少しずつ対面の授業が始まり、対面での交流も始まったことでゆっくりと「大学生らしい生活」がスタートしました。教室で授業を受け、学食で友人とご飯を食べることができたときには、本来なら当たり前のことのはずなのに、これまでにない充実感を感じました。この頃は、先行きの見えなさに不安を感じる日々でしたが、同時に周囲の人の優しさを改めて感じた日々でもありました。先生方や職員の皆様、家族のサポート・声かけに何度も励まされ、友人との連絡やオンラインでの交流から元気をもらい、周囲の人々に何度も助けられながら温かい心で過ごすことができました。
 また、友人にも恵まれた大学生活でした。厳しい法学部の試験を乗り越えることができたのは、一緒に勉強し、励ましてくれた友人たちのおかげです。もちろん、友人との何気ないおしゃべりも旅行も、大学生活を楽しいものにしてくれました。大変なことも多かった留学生活中も、友人たちの頑張る姿を見て私も頑張ろうと何度も励まされました。
 制限の多い4年間だったからこそ、制限の中でどうやって楽しむのかを考え、また、在る挑戦に貪欲になることができたのではないかと思います。1、2年生の時にはオンラインだからこそ気軽に参加できることを利用して、複数のオンライン留学プログラムに参加し、興味の向くままに幅広い分野を学びました。もともと留学願望があったため、もっと国際的な経験を積みたいと編入したGVプログラムでは、英語で法を学び、様々な国の大学生と交流する機会を得ました。3年次にはコロナの規制が緩和され、念願の留学も経験することができ、オランダで1年間国際法を学びました。実際に現地へ留学できたのだからいろいろな経験をしなくてはもったいないと思い、勉強はもちろんのこと、人との交流や旅行も目一杯楽しみました。様々な考え方や価値観、文化に触れ、五感で感じることができたのは、本当に貴重な経験となりました。
 最後にはなりますが、困難な状況の中、学びの場を提供してくださった先生方、職員の皆様にこの場を借りてお礼申し上げます。また、大学生活を楽しいものにしてくれた友人たち、支えてくれた家族には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
 この時期に大学生活を過ごしたからこそできた経験や持っている価値観・視点は、これから社会へと出ていくなかで役に立つと信じています。卒業後は、法学部での学びと経験を活かしながら、精一杯頑張っていきます。
 4年間、本当にありがとうございました。

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広報卒業生インタビュー 今年3月に卒業を迎えたスタッフ2人に話を聞きました。 山口 佳乃さん

●4年間の広報活動から何を思いますか。

山口 佳乃さん 写真  広報活動から、一人一人の声を聴くことの大切さに気付くことができました。特にコンテンツを作成する際は、直接利用者の感想を聞くことで分かります。例えば、広報のTwitter(現X)アカウント作成に当たっては、アンケートを作成・実施することで、学生の声を聴くことができ、アカウントの必要性を感じることができました。また、法学部サロンの運営に関しても、知り合いの声を聴くことで、よりよい運営ができたと思います。広報委員会の中だけで議論するのではなく、組織外の意見を聞くことで見えてくるものがあることを学びました。
 大学では学生と学務・教授の距離が遠く、学生のニーズが届かない場合もあります。そんな中で、学生から大学への最初の接点として広報のスタッフがいます。広報活動は、任意での仕事です。やらないという選択肢があるにもかかわらず活動しているのは、誰かの役に立ちたいという思いがあるからです。

●広報委員会で印象に残った活動はありますか。

 まず、入江先生の記事を担当したことです。初めて授業外で教授と会話させてもらいました。紛争管理論について伺い、六法以外の内容に1年生のうちに触れることができ、よかったです。
 また、西鉄の社長と福岡銀行の頭取の対談に同席し、編集までさせてもらったことは貴重な体験でした。福岡銀行本社ビルの14階で大濠公園を見下ろしながらの対談であり、緊張しましたが、柔らかく対応していただきました。法学部での勉強が社会人になったときどのように役に立つのか、実際に一から学ぶことにつながった、などお二人が直接経験したことを伺えました。
 オープンキャンパスでのパンフレットの作成も大きな経験となりました。一から制作に携わり、先生方と協力して作り上げました。オープンキャンパスでは広報活動の受け手である受験生と直接接する数少ない機会であり、目の前でパンフレットを読んでいただけていると実感しました。

●これからの抱負をお願いします。

 無理をしないことを大切にしたいと思います。就活の時は、「楽しく仕事をしたい」という思いを軸にしていました。長年、好きで放送の活動を続け、これから仕事としても放送に携わるので、放送が嫌いにならないためにも、無理をしないようにしたいです。また、誰かの行動のきっかけになれたら、とも思います。 情報が溢れすぎている現代ですが、一人の発信者として、誰か一人でも、ある特定の世界に興味をもってもらい引き込むことができるような仕事をしたいです。

馬場 優香さん

●4年間の広報活動からなにを思いますか。

馬場 優香さん 写真  印象に残った活動はHP作成の引き継ぎです。以前はHPに広報の欄がない状態でした。2学年上の先輩がドラフトまで進めておられましたが、それを公開まで持っていくことができました。HP作成の上で、多くの先生方と連絡を取りましたが、このとき関係を調整することが難しかったです。また、なかなか思ったような形には至らず、大変でした。そんな中、吉田君(後輩の一人)がワードプレスをうまく用いて解決することができ、人それぞれの適材適所の重要性を感じました。
 また、広報活動では先生方と関わる機会が多くありました。最初は壁を感じていましたが、次第に仲間のような感覚、職場のような環境を感じるようになりました。
 大学生活も就活も情報戦です。とくに、大学では自分で情報を探す必要があるのですが、そのことを知らない人が多くいます。基本、情報の収集は自己責任ですが必要最小限の情報は提供するべきです。広報では、HPやXを通してその必要最小限の情報を提供することが重要だと思います。

●大学を卒業するにあたって感じたこと

 あっという間でした。入学時は大変に感じましたが、試験などうまく乗り切れたと思っています。入学当初はコロナ禍で、知り合いがいるかも分からず、関係づくりが難しかったです。しかし、その分、自分の人生が人と人との繋がりからあることを実感しました。Zoomを用いてカメラ越しで話すこともありましたが、やはり画面越しだと何を考えているか分かりにくく、腹を割って話すには対面であることが重要だと感じました。2年生の時にはコロナも収束に向かい、それからは人と人の繋がりを考えながら活動ができました。授業では、初めはzoomやteamsの取り扱いに苦労しました。カメラをオンにして授業を受けると、先生からあてられることが多く、「授業を受けている」と強く実感することができました。

●これからの抱負をお願いします。

 職場に慣れ、これから共に自治体を盛り上げていく仲間や職員の方との仲間意識を作っていくことです。地元のまちづくりに尽くすためにも、仲間意識をもち活動していきたいです。

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LSGLを通じて ご出席された先生方への個別のインタビューについては、準備ができ次第、ホームページに掲載予定です。安里 奏咲(現在法学部3年)

 私は、2月6日に行われたLSGL(Law School Global League)での、プレゼンテーションに参加しました。これは、韓国のソウル大学ロースクール生を招き、1月29日から2月7日の約10日間にわたって行われたGV Workshopの集大成として行われたものです。
 プレゼンの準備段階として、初めに各国の法科大学院制度を紹介し、類似点・相違点を深掘りしました。韓国の法科大学院制度のうち特徴的なものは、法科大学院に入学する上で、法学部を卒業している必要はなく、そもそも法学部がないケースが多いということです。日本は法科大学院の未修コース・既習コースのどちらも法学部を卒業した生徒が多数を占めますが、韓国では法学部がないことから、理系学部生の受験が珍しくなくなり、生徒の多様化を図ることができます。その後比較を踏まえたうえで、各国の制度の改善点を中心に「Past, Present, Future of the Law School」というテーマのもと、プレゼンを作成しました。日本の法科大学院制度の改善点として、奨学金の問題が挙げられました。日本には奨学金制度が韓国に比べて少なく、そのほとんどが経済的要因ではなく入学試験の結果に基づいて与えられるため、奨学金制度が多くの生徒に開かれているとは言えません。
 プレゼンは他国の法科大学院の教授の前であったため、英語での発表でした。緊張して不安でしたが、ソウル大学の学生が表現の仕方に加えイントネーションや発音についての指導をしてくださり、それをもとに練習を何十回と繰り返したことで自信をつけることができました。ソウル大学の学生は皆英語のレベルが非常に高く、自分との圧倒的なレベルの差を感じ、これから先英語にさらに力を入れていかなければならないと強く感じました。単なるコミュニケーションの英語に加え、発表時のフォーマルな英語の学習にも取り組んでいきたいです。

 プレゼン前は不安でいっぱいになり発表役を引き受けたことを後悔していましたが、発表後はめったにない貴重な舞台で発表できる機会を頂けたことをとてもうれしく思います。
LSGL 写真 今回のプレゼンは私にとって大変良い経験になり、プレッシャーに強くなることが出来たと感じます。またプレゼンはもちろんのこと、観光やご飯などで時間を共にすることでソウル大学の学生との絆を深められたことが私にとってのなによりの財産になりました。


五十君 麻里子(法学研究院 教授)

 2024年2月5-8日九州大学伊都キャンパスにてLaw Schools Global League(略称LSGL)冬季会議が24の国と地域から法学部長等を中心に60名以上の参加を得て開催された。LSGLは2012年に世界の指導的law schools(各国の法学教育制度の違いで法科大学院に限らず法学部等も含む)により設立されたセレクティブなコンソーシアムで、グローバルな視点から共同で法学の教育研究にあたっている。
 九州大学は、1994年以来の国際コース(LL.M.)の実績を認められ、シンガポール国立大学の推薦で2020年2月にUNSW(オーストラリア)開催の冬季会議において、日本の大学としては唯一加盟を認められた。直後のCOVID-19の世界的蔓延により一時活動が停滞していたものの、FGV(ブラジル)における2022年の夏季会議への参加以来、Strathmore大(ケニア)、King's College(UK)の会議に東アジアの加盟校で唯一代表者を送り、今回冬季会議の開催校に抜擢された。
 5日の法学研究院主催の歓迎会で幕を開けた同会議は、フランクな雰囲気そのままに6日午前の部局長会議を経て、午後には「日本の法曹養成制度」「法分野におけるジェンダー平等」をテーマとするパネルディスカッションが行われ、前者では松井教授が概要を説明、法学部生の代表もソウル国立大学法科大学院生とともに両国の違いに関するプレゼンを行って、好評を得た。後者ではUK、USA、トルコ、日本の状況が紹介され、各国での大きな改善に対し日本の後進性が浮き彫りとなった。7日の学術会議ではGlobal Private Law、Legal Education、New Technology & Legal Educationをテーマに最先端の議論が展開され、河野名誉教授、フェニック教授、八並准教授による"Situating NetworkResponsibility"と題する研究報告は多大な関心を持って受け止められた。8日は長崎へのCultural & Peace Visitで原爆資料館等を視察し、世界平和における法学教育の重要性を改めて確認しあった。
LSGL 写真2  お忙しい中ご参加くださった岩田理事、神崎理事、徳本法学研究院長にこの場を借りてお礼申し上げる。広報やアルバイトを含め関わったすべての学生の皆さんに「世界」を感じてもらえたのが最大の収穫であった。

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ミュンヘン大学(LMU)での海外研修 高岡 大輔(法学研究院 准教授)

ミュンヘン大学(LMU)での海外研修 写真  准教授の高岡(民法)です。法学部の准教授長期在外研修制度を利用させていただき、2023年後期から1年の予定で、ミュンヘン大学(LMU)で研修しています。また、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団からの奨学金を受給しています。
 受給決定前に学内申請をしたのですが、取れなければ資金不足でした。ミュンヘンで家族向けの部屋は月2000€(32万円)以上します。受給決定が7月11日で証明書交付が8月17日。その後で財団から9月10日までに国内でビザを取得するよういわれ、領事館のサイトをみたら予約満杯で慌てました。往路旅費援助の申請期限も出発40日前まで。一つ前の審査(4か月ごと)に出すべきでした。酒席で先生方から準備不足を笑われたのも納得です。
 到着後、フンボルト奨学金のプログラムに従いカール・デュイスブルグ・センターで語学研修を受けてから本格的な研究に入ったので、実はこれを書いている時点で開始からあまり経っていません。環境は個室を用意していただけており、大学でのIDを使ってデータベースも利用できます。法学部図書館も充実しており、本は貸出せずに中で読むか、備品でスキャンすることになっています。院生も多く、その辺でよく議論しており、いろいろな国の出身者がいて活気がある印象です。書店が思ったより小さいことだけが意外でした。授業などは好きに聴講してよいそうです。 部局は講座制で、受入教員になっていただいたLorenz先生(民法/国際私法/比較法)の講座には秘書1人・助教(少し違うかもしれませんが)4人・TA/RA計5人がいます。 先生とは何度かお話ししましたが、もう少し研究が進んだらまた助言を乞いたいと思っています。
ミュンヘン大学(LMU)での海外研修 写真2  最後に、いろいろご配慮をいただいた民法講座の先生方や推薦状を書いていただいた河野先生をはじめ、研修のためにお世話になった九州大学の先生方にこの場を借りて改めて深くお礼申し上げます。

ハーバード・イェンチン研究所およびウィーン大学での海外研修 成原 慧(法学研究院 准教授)

ハーバード・イェンチン研究所およびウィーン大学での海外研修 写真  准教授(情報法)の成原です。法学部の准教授長期在外研修制度を利用して、2023年8月後半から本年5月までの予定でハーバード・イェンチン研究所(HYI)において研修しております。また、本年6月から9月までウィーン大学において研修を行う予定です。今回の海外研修には公益財団法人電気通信普及財団からの援助も受けております。
 九州大学はHYIの提携校になっており、九大の学内選考を経てHYIの書類選考と面接を受けて客員研究員に採用していただくことができました。また、ウィーン大学にも九大と学術協定を締結しているご縁で滞在させていただけることになりました。
 HYIは、独立の法人格と財源を有する組織ですが、HYIのプログラムはハーバード大学と一体的に運営されており、私もハーバード大学で研究をしております(大学からIDを付与され、大学の図書館やデータベース、各種施設を利用することができます)。メンター(指導教員)は、インターネット法の研究で著名なバークマン・クラインセンターのジョナサン・ジットレイン教授です。ハーバードでは、アジア各国から来ているHYIの同僚のランチトークや学内外の有識者の講演会に参加して議論したり、ロースクールや哲学科の講義を聴講しています。私も間もなくランチトークで日本のプラットフォームガバナンスについて報告しなければならず、その準備に追われているところです。合間にワシントンDCに出張し連邦最高裁で弁論を傍聴したり、ブレトンウッズにスキー旅行に行ったりと、学外での見聞も広げています。
ハーバード・イェンチン研究所およびウィーン大学での海外研修 写真2  この場を借りて、電気通信普及財団への推薦書を書いてくださった前法学研究院長の熊野先生、HYIへの推薦書を書いてくださった小島先生、ウィーン大学への滞在を後押ししてくださった五十君先生、いろいろとお気遣いくださった法学研究院長の徳本先生や基礎法講座の先生方をはじめ九州大学の先生方に心より御礼申し上げます。

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LPセミナー(2023年度)模擬裁判 吉川 菜々子(現在法学部2年)

吉川 菜々子(現在法学部2年) 写真  私は今回の模擬裁判で、被告チームの事務的な受け答えを主に担当しました。私の担当は、被告本人役や尋問の担当とは異なり、裁判中に自分で考えながら発言する機会は多くはありませんでしたが、裁判の流れを円滑に進める上では決して欠かせない存在です。
 模擬裁判に至るまでの過程では、授業後に被告チームで集まって準備を進めました。事前に用意された資料を参考に、原告にとって不利になるであろう点だけでなく、自分たちの弱みであるポイントも確認し合いました。被告チームの担当である浦川雄基先生には、裁判の進め方から尋問事項の内容、資料に関する詳細な説明に至るまで多くのアドバイスを頂き、裁判に関する知識がほとんどなかった私でも自信をもって参加することが出来ました。
 また、裁判当日は、裁判官チームが審議を行っている間に六本松にある弁護士会館や九州大学の法科大学院を案内していただきました。LPセミナーなどを通して法曹の方々のお話を伺う中で、大学卒業後の自分の進路について考える機会が増えていたため、法曹という選択肢を具体的に思い描くことができたことは貴重な経験になりました。
 結果としては、裁判官チーム3つ中2つのチームで被告に有利な判決を出すことができました。当初は比較的原告に有利な条件が揃っていたため、準備の成果が出たことが嬉しく、判決が出揃った後に被告チームで喜び合ったことは忘れられません。
 最後にはなりますが、今回の模擬裁判において多くのご指導を頂いた浅野先生、浦川先生、ありがとうございました。

児玉 凜(現在法学部2年)

児玉 凜(現在法学部2年) 写真  私は今回の模擬裁判に裁判官チームの一員として参加させて頂きました。模擬裁判は書面の準備から本番さながらに行われ、弁護士の先生に細かくご指導頂きながら準備を重ね、模擬裁判本番を迎えました。
 準備の段階では弁護士の先生と定期的に勉強会を開かせて頂き、これが大変いい刺激と勉強になりました。まず漠然と持っていただけのイメージとしての裁判ではなく、実務としての裁判の様子を知れたこと。そしてより具体的に思い浮かべられるようになった法廷において、裁判官がどのような思考で裁判を進めているのかについて考え、その責任の重さと法的思考の重要さについて肌身で感じることができました。私は元々法曹志望で法学部に入学しましたが、それを実際に仕事とする上での責任の重み、思考の仕方などはこの模擬裁判という本番さながらの舞台でなければ我がこととして捉え、感じることはできなかったと思います。始まったばかりの専攻授業を受ける心持ちも引き締まるような気がしました。模擬裁判当日には、裁判と聞いてイメージしやすい主尋問・反対尋問だけでなく、訴状の提出・陳述といった実際の裁判の流れをそのまま辿って行うことでより鮮明に裁判の様子を知り、考えることができました。
 弁護士の先生の貴重なお話を聞き、そして克明に裁判の様子、その実態を知ることのできる模擬裁判はほかにない機会でした。実際に就いたことのない職業に対してイメージしか持てないのは当然のことですが、その実情にかなり近い場を大学から用意して頂き、弁護士の方に指導して頂ける機会というのは大変貴重で、そして有意義なものでした。この場を借りて感謝申し上げます。

九州大学法科大学院教授/弁護士 安武 雄一郎

 2023(令和5)年12月17日、九州大学法政学会が主催する「LPセミナー」の民事模擬裁判が開催されました。LPセミナーは、現役の裁判官・検察官・弁護士などの法律実務専門職を講師とする、業務内容、仕事のやりがい、実務における法律の運用等を講義する、法学部1年生を対象とする連続講座です。民事模擬裁判は、セミナーの最後のイベントとして、受講生から希望者を募って実施しています。
 今回の模擬裁判では、建設会社の従業員が勤務先から金銭を借り受けたか否かを争点とする貸金請求事件を取り上げましたが、受講生を裁判官役・原告代理人弁護士役・被告代理人弁護士役に振り分けるほか、当事者(本人)も受講生に務めていただくことになっています。当然ながら、『お芝居』ではないので、あらかじめ決められたシナリオは存在しません。受講生は、事件記録を丹念に検討し、それぞれの配役に応じて、口頭弁論・弁論準備手続・証拠調べ(本人尋問)から判決言渡しまでの一連の民事裁判手続を実演することになります。法廷で繰り広げられるやり取りの全てを、受講生自らが考え、グループで議論して準備し、本番に臨まなければなりませんから大変です。もちろん、専門課程を履修していない学部1年生だけで乗り切ることはできませんので、アドバイザーの弁護士が事前に勉強会を実施してフォローしました。受講生の熱意と努力の結果、本番では、全員で真剣に取り組んできた成果がいかんなく発揮されたように思います。
 今年度も30名を超える受講生が参加し、裁判官役を3つの裁判体(班)に分け、班ごとに判決を言い渡しましたが、2つの班が請求棄却(被告勝訴)、1つの班が請求認容(原告勝訴)という結果になりました。各班が朗読した判決理由によれば、原告から提出された書証の意味合いや証拠としての価値を丹念に検討し、それを踏まえたうえで原告代表者および被告本人の双方の尋問における陳述の信用性が丁寧に検討されていました。判決という一定の結論を導くための心証形成の過程が判決理由からも十分に理解でき、非常に高いレベルに至っているように感じました。原告代理人弁護士役・被告代理人弁護士役による尋問も、主尋問・反対尋問ともに迫真性に富んだものであったと思います。
 LPセミナーの模擬裁判は、本物の法廷の雰囲気を感じていただくよう、例年、法科大学院の法廷教室で実施しておりましたが、今年度も感染対策の観点から弁護士会館のホールを利用しました。実際の裁判の息づかいを完全に再現するには至りませんでしたが、受講生の熱心さによって、緊張感ある法廷でのやり取りが繰り広げられました。よい経験になったのではないかと思います。
 次年度のLPセミナーでも模擬裁判を開催する予定ですが、ひとりでも多くの学部1年生に加わっていただければと願ってやみません。 LPセミナー(2023年度)模擬裁判 写真 実務法曹である弁護士としても、法学部卒業生としても、法科大学院で教鞭をとる実務家教員としても、このセミナーに参加した受講生から、将来の有望な実務法曹を輩出することができれば幸いです。

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鈴木秀美教授(慶應義塾大学)の特別講演 赤坂 幸一(法学研究院 教授)

鈴木秀美教授(慶應義塾大学)の特別講演 写真  2023年12月22日、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所の鈴木秀美教授をお招きし、「日本とドイツの違憲審査制━表現の自由を手がかりに」との標題で、違憲審査制の運用のあり方につき、比較法的な知見を交えてお話しいただきました。裁判所や違憲審査制については、越年講義である憲法1では、次年度前半に扱う予定ですが、わかりやすい切り口と朗らかな語り口は、多くの受講生にとって知的な刺激を与えてくれたのではないか、と思います。
 違憲審査に必ずしも積極的ではない日本の裁判所に対し、憲法の現実化をその任務とするドイツの連邦憲法裁判所は、「国民から最も愛されている国家機関」(クリストフ・メラース)と評価されています。ご講演では、連邦憲法裁判所の制度的特徴(法的地位、組織、権限等)をかみくだいてお示しいただいたのち、ドイツの主要な憲法判例(リュート判決や、生活パートナーシップ、法廷テレビカメラ取材に関する一連の判決、近年の立法にも影響を与えているヴンジーデル決定など)をご紹介いただきました。その上で、連邦憲法裁判所に対する肯定的な評価はその積極的な姿勢に起因することが示され、日本の裁判所が抱える課題として、①比較衡量の際、表現の自由の意義を十分に考慮できていないこと、②少数者の声に耳を傾けてこなかったこと、③法廷でのカメラ取材などにつき、取材・報道の自由や知る権利を十分に考慮してこなかったことなどが指摘されました。先生の最新のご研究の成果も盛り込まれており、大変刺激的でした。
 ご講演後、想定を上回る量の質問が寄せられたこともあり、場所を移しての懇談の機会を改めて設けていただきました。日独の法文化の違いや違憲審査のあり方、ジェンダーの問題、福岡や九大の印象に至るまで、質問の内容は多岐に渡りましたが、お答えはいずれも示唆に富むもので、また、口頭でのやり取りでは消化不良になるのではないかと、それに手を入れた「書面回答版」まで作成していただき、質問を寄せた受講生へと還元してくださいました。鈴木先生はまた、メディア法の第一人者でもいらっしゃいます。この点に関しても多くの質問が寄せられ、関西テレビの社外取締役を務められたご経験も踏まえて、大変貴重なお答えをいただきました。
 研究の最先端に触れ、学生たちも多くの刺激を受けたものと思います。鈴木教授には、あらためてあつく御礼申し上げます。

著書紹介 「歴史」から「現在」の刑事法理論を学ぶ 野澤 充(法学研究院 教授)

野澤 充(法学研究院 教授) 写真 ドイツ現代刑事法史入門 写真

 この度、ドイツ・ハーゲン通信大学のトーマス・フォルンバウム教授による著書(Thomas Vormbaum, Einführung in die moderne Strafrechtsgeschichte, 3.Aufl .,2016)の翻訳書である『ドイツ現代刑事法史入門』を、神奈川大学の公文孝佳教授との共訳により出版することができた。本書は、これまでに出されたドイツ刑事法史に関するドイツ語書籍のように「刑事法の一般的通史を描くこと」をその目的としているのではなく、「啓蒙時代の末期から現代にいたるまで、『現在』につながる形での刑事法の発展史を概観」した上で、「現行刑法に対する歴史的観点からの批評を可能にする理解を示すこと」をその目的としている(本書「はじめに」第1段落参照)。このような歴史的観点からの分析・検討に基づいてドイツに現在まで残る刑事法制度の淵源を明らかにすることにより、翻ってまさに現在のドイツ刑事法学がどのような問題点を抱えつつあるのかを、ときおり批判的にも検討するものなのである。
 日本の法制度の中でも、刑法は現在でもドイツの考え方を大きく取り入れており、その意味でもドイツにおける刑事法理論の紹介は意義がある。とはいえ、なぜ「歴史研究」なのか?最新理論を学ぶことこそ意義があるのではないか?このように思われる方もいるかもしれない。しかし現在の法制度も、過去の歴史的経緯に基づいて作られたものである。「法は徹頭徹尾歴史的なもの」であり、その歴史的積み重ねが、現在の法制度を形作っているのである。そうであるならば、現在の法制度の形だけを見てもそれがなぜそうなっているのかという「意味」を理解することはできない。その意味で、ある法制度に関して研究する際に━立法者意思に対する結論としての最終的な賛否に関わりなく━ その法制度についての歴史的経緯を知ることこそが、法制度の意義を正しく理解するためには必然的・必要的なものであるといえるのである。本書が、現在の日本の刑事法制度の理解のための一助となることを願うばかりである。

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