国際交渉力を育てる
グローバル社会で生き抜く力を身につけるには
受験生の保護者の方々、受験生の指導にあたられる先生方の中には、昨今の社会情勢の激動と、受験生の将来をどのように結びつけるべきか、迷われる方も多いのではないかと拝察します。
世界中でグローバル化が進行する中、日本社会も大きく変わりつつあります。そして、グローバル化の波は、個人のキャリアを大きく左右する、労働市場にも及びつつあります。
従来のように、手ぶらで国内の官庁や大企業に就職すれば安心、という発想は、徐々に失われています。企業が業務に必要な人材育成コストをすべて担うという雇用形態は、世界的な労働市場の中では維持しがたいからです。また、雇用主が福祉主義的国家の一要素として、「揺りかごから墓場まで」従業員やその家族を支える雇用ビジョンは、特に冷戦終了以降、良かれ悪しかれ、その訴求力が大きく削がれています。
つまり、個人の生存やキャリアを、雇用主や組織に全面的に依存することは、大きなリスクを伴うのです。
今後は日本においても、個人の力で世界市場を生き抜く力を身につける必要があるでしょう。
そのために最も確実と考えられる道の一つが、専門能力の獲得、特に、「長い伝統と実績を背景とした確実な基礎能力と、現代社会の最新状況に的確に対応できる応用能力」の獲得です。これらの能力の獲得は、大学教育・大学院教育に対して、これまで期待されてきたものです。とりわけ、海外では大学院レベルの専門知識や学位が大きな意味を持っており、今後日本においても、大学院まで含めた高等教育はその重要性を増してゆくでしょう。
しかし、わが国の教育制度または慣行において、トップレベルの大学生は、法曹と医療従事者を除けば、大学で専攻した知識を常にそのまま業務に活かせるとは限りません。つまり、従来の大学生は、ゼネラリストとして養成される側面が強かったということを指摘できます。これは、従来の労働市場が大学に求める人材養成の姿であったのかも知れません。しかし、すでに述べたように、もはやその図式は当てはまらないでしょう。現在求められる姿とは、専門能力を兼ね備えた人材であると言えます。
トップレベルの大学生を専門家として養成するとはどういうことでしょうか。
その答えの一つとして、九州大学法学部は2015年度より、Global Vantage Program(通称GVプログラム)を創設しました。GVプログラムは、総合型選抜II(元AO入試)を経て入学する法学部生のプログラムである同時に、入学後の学部・大学院を通じた一貫教育コースの名称でもあります。
GVプログラムでは、国際的なビジネスやルール策定の場で、世界中の法律家と対等に交渉する能力、「国際交渉力」を持った人材の育成を目指します。すでに現在、日本の鉄道会社が海外に運行システムを販売したり、県庁が県内の農産物の輸出や中小企業の海外展開の支援を行ったりと、従来国内業務中心であった業種においても国際化が不可避となっています。国際交渉力を持った人材は、世界の政治・経済・法が緊密に連関する現代社会において、あらゆる場面で求められています。GVプログラムが養成するのは、現実の社会でもっとも切実に求められている人材です。
一流の大学で「少人数教育」を受ける意味
日本の法学部は、自学自習の伝統や、教員数と学生数の関係などから、いわゆる「マスプロ教育」に傾斜しがちでした。保護者・教員の皆さまの中にも、数百名を収容する大教室で一人の教官が行う一方通行の講義を、ノートを取りながら聴講した経験をお持ちの方がいらっしゃるかもしれません。少人数ゼミナールはどの法学部でも通常設置されますが、そこでは特定の法領域に関する議論が主に行われ、学生が一人の社会人としてどのような能力を身につけるか、という観点からの教育を、体系的に取り組んで行う例は多くありませんでした。学生はしばしば、何をどのようなタイミングで学んでよいか分からず、「自由な選択」「自己責任」の名の下に、一貫性を欠いた講義やゼミの寄せ集めからなる単位の収集を行っていました。
最近はこの傾向もようやく変化しはじめ、全国的にも徐々に、学修モデルの提示や少人数教育、きめ細かな学修サポートを謳う大学が現れました。九州大学法学部としても、全ての学生を対象に、4年間を通じた学習状況の把握や、適切な指導のための体制作りに日々努力を重ねています。
この状況に対して、GVプログラムが提供するのは、これまでの法学部教育ではほとんど試みられなかったレベルの、充実した学修サポートです。そのキーワードは、「学部・修士一貫教育」と「少人数チュートリアル指導」。これは国際交渉力を持った法専門家(グローバル・ローヤー)の育成」という、明確な目的のために構築された、独自の教育プログラムです。
具体的には、GVプログラムの学生は、語学や法学学修の全般について、一人一人が各自の進捗度に見合った必要な指導を受けます。海外留学についても、一人一人の個性に応じたアドバイスを受けることができます。この手厚い少人数指導を可能にするのは、学生の就学期間全般(原則4年半〜5年)にわたってGV学生を指導する専門のスタッフ(ティーチング・アソシエイト)や、語学・法学全般について学生指導に取り組む、複数の教員からなるGV教育チーム体制、それを支える適切な教育支援システムです。
従来の大学教育は学修の自由度が非常に高い反面、学修期間を通じた一貫性のある学修を実現することは困難でした。GVプログラムでは、学修プログラムについて、個々の学生の興味に応じた自由度を保障しつつも、教育のコアとなる部分については明確な目的に沿った学修ロードマップを用意し、それを確実に実践することを可能にします。
GVプログラムが、学生に要求する学修のレベルは、非常に高度です。従来の九州大学法学部生が身につける法学の基礎に加えて、世界中の大学院に進学可能な語学能力、そして応用・実践的な国際ビジネス経済法の習得を要求されます。また、海外での様々な大学での留学や国際機関でのインターシップなどの機会を、GV学生全員に対して十分に確保し、そこから多くを学んでもらいます。この高い到達目標や、過密とも言える学修スケジュールをこなすためには、上記のような特に手厚い指導体制が必要なのです。
日本および世界の上位校に位置する大学で、明確な目標を持った最高度の少人数選抜教育を受ける意義は非常に大きいと思われます。
修士(法学)の学位(LL.M.)の国際的な意味と、九州大学LL.M.
大学では、学部を卒業すれば学士、大学院修士課程を修了すれば修士、大学院後期博士課程を修了すれば博士の学位が、それぞれ授与されます。ところが、日本では、文系修士以上の学位は、その市場価値は高くありません。文系大学院生の就職活動は、理系大学院生のみならず、文系学部生に比べても、一般に厳しいと言われています。これは、先に述べたように、企業が大学教育に専門能力の養成を期待せず、ゼネラリストを要求する傾向が高いためと考えられます。
しかし、海外に目を転じれば、修士以上の学位は人材評価の大きな要素となります。むしろ、学士号しか持たない者は、国際ビジネスの場で軽視される傾向にあります。海外のマネージャークラスのビジネスマンは、誇らしくDr.の称号を名刺に書きます。将来、グローバルな場で活躍したいと考える学生にとって、大学院への進学はむしろ必須とさえ言えます。
大学院進学についても、様々な可能性があります。もちろん、一流の大学院を選択すべきことは言うまでもありませんが、3~4年間GVの学修プログラムに積極的に参加した学生であれば、海外の一流大学院のどこにでも進学するための基本的能力を備えることが可能でしょう(そのような進路も排除されません)。
しかしその選択肢の中でも、九州大学LL.M.を、有力な選択肢として挙げたいと思います。九州大学LL.M.は、1994年に開設され、長い伝統と実績を持つ、英語のみですべての課程を修了する法学大学院です。ここには、アジアをはじめ、世界各国からエリートが集い、OB/OGの中には、世界各国の法曹や官僚(大臣クラスまで)がいます。この大学院は高い国際的承認も得られ、現在、世界のLL.M.紹介サイトでは、九州大学LL.M.が、日本の大学としてトップの知名度を誇ります。
日本国内にいながら、国際的に見ても特筆すべき多様性に富んだ環境に身を置いて、世界中から集まったエリートと共に、さまざまな法領域について高い研究実績を持つスタッフの下、完全に英語のみで講義を受け、修士論文執筆まで行う九州大学LL.M.は、将来国際的な活躍を希望する学生にとって、有力な選択肢となります。保護者の方々から見れば、世界的に承認された教育の質の高さのみならず、ご子息・ご息女が基本的に日本国内にいるという安心感・経済的優位性、国内の文系学生就職状況に配慮したカリキュラムや修了年次の調整等(後述)を行うこの大学院は、魅力的な途となり得ます。
キャリアについて
大学進学にあたり、文系学部に進学をしても就職が厳しいのではないか、との懸念が広がり、理系とりわけ医系の学部に受験生が集まる風潮もありました。
大局的に見れば、こうした懸念は杞憂であるのみならず、社会全体にとって有益でもないと思われます。なぜなら、医者や技術者のみで社会が回ることはあり得ず、人間ひとりひとりの本質を見極めた、ルール遵守に基づく適切な社会経済活動がなければ、社会は成立しないからです。そして、そこには人文・社会科学の知見・蓄積が必須です。また、個人としてのキャリアという観点から見ても、もっとも大事なのは、社会の風潮ではなく、各受験生の適性や希望にもっとも適合した進路選択です。
九州大学法学部においては、民間企業、官公庁、法曹、研究者等、様々な進路実績があります。九州地方および国内全域での就職について、極めて有利なポジションに立ち続けていることは、いささかも揺らいでおりません(詳細はこちら)。これに加えて、さらにGVプログラムの学生には、世界に視野を広げたキャリアの可能性が広がってきます。GVプログラムでは、2019年年度に第1期の学部卒業生を輩出して以来、大企業の法務部をはじめ、コンサルティング企業、ベンチャー企業、著名な海外の大学院や研究所など、幅広い充実した進路実績を残しています(詳細はこちら )。
九州大学LL.M.を修了した各国からの留学生は、世界中の官公庁、企業、法律事務所、教育研究機関へと就職しており、それらOB/OGたちが、”KYUDAI-LL.M. network”を、世界中に形成しています。GVプログラムの卒業生も、このKYUDAI-LL.M. Networkを背景に、世界中のエリートを同輩として、グローバル社会の中で法専門家として通用する人材へと育っています。
グローバル・ローヤー育成のサポート体制
法学の分野で学部・大学院を一貫させ、かつ海外への留学、インターンシップ等を組み込んだコースは国内に類を見ず、不安が残る部分もあるかと拝察いたします。九州大学では、上記以外にも、意欲ある学生を最大限にサポートするための体制を作り、かつ常にこれを改善する努力を重ねています。
就学期間
法学部教育は原則として4年間、大学院教育は原則として2年間とするのが、日本の大学の基本的な形態です。したがって、現在の日本の大学院で修士号を取得するためには、最低6年間の学修期間を要求されます。
しかし、GVプログラムでは、文系学生の現実的な就職活動状況等に配慮して、なるべく短期で多くの学修を経て、LL.M.(法学修士)の取得にまで到達するよう、制度的な手当てを行います。
まず、九州大学LL.M.は、1年間のみの課程で修士号を取得できるように設計された大学院です。これにより、GVプログラムの学修期間は、原則として5年間となります。
また、九州大学LL.M.は、海外の多くの大学院に合わせて、9月から年度がスタートします。このため、法学部については、優秀なGVプログラムの学生に対して、飛び級による早期卒業(3年半)が可能となっております。つまり早期卒業を利用すれば、1年間の大学院を組み合わせても、最短で4年半での修士号獲得が可能となります。さらに、九州大学LL.M.では、2021年度より4月入学も開始しました。この制度を利用すれば、法学部を3月に卒業(一般卒業)する学生もギャップイヤーを経ることなく九州大学LL.M.に進学することができ、5年間での修士号獲得が可能となります。(下図参照)
経済的サポート
GVプログラムは九州大学法学部、大学院法学府の内部に設けられる学修コースであり、通常の法学部生、大学院生以上の追加学費は不要です。
加えて現在、学生が取得可能な奨学金や留学奨励金等は、大学内外に複数あります。すでに現在、海外エクスターンシップや長・短期留学を行う学生のほとんどに、日本学生支援機構・日本学術支援機構・九州大学基金等により、旅費や奨学金が給付されています。
GVプログラムでは、専任のティーチング・アソシエイトや教育チームスタッフが、個々の学生に合った最適な奨学金、留学資金の獲得に向けて、積極的に指導を行い、情報提供も随時行ってまいります。特に、GV学生が原則として全員参加する海外エクスターンシップ等については、GVプログラム全体で、必要な費用補助を設けます。これによって、保護者の方々の経済的負担が最小限となるよう、可能な限りサポートしてゆきます。
海外での安全確保
保護者の方々にとっては、成人前後のご子息・ご息女の海外渡航は、安全等の面で不安が残ることでしょう。
九州大学では、信頼性の高い大学や国際機関と協定を結び、自信を持って学生を送り出しています。なかでも法学部から学生を派遣する際には、常に現地の教育スタッフと連携し、緊急事態にも対処できる体制をととのえており、COVID-19への対応も全学で最もきめ細かいものでした。また、教員が実際に留学先を視察し、派遣先との交渉を行うなど、学生の不安等の軽減に努めています。さらに、GV学生が原則全員で参加する海外エクスターンシップなどでは、教員スタッフも同行いたします。
なお、九州大学LL.M.が設置された1994年から現在まで、海外渡航中、九州大学法学部、大学院法学府の学生に重大事故が発生した例はありません。
大学の4年間や大学院の学修期間は、決してモラトリアム期間ではありません。近い将来、社会で活躍するために必要な知識やスキルをまとめて身につける、最後のチャンスでもあるのです。九州大学法学部GVプログラムは、そのかけがえのない時間を、最高の教育内容とサポート体制で支援いたします。