修了者からのメッセージ
橋本 道成 弁護士
九州大学法科大学院を目指される皆様・在校生の皆様へ
はじめまして。私は九州大学法科大学院の第1期の卒業生(2006年卒)で,卒業後は、弁護士法人北浜法律事務所という事務所で9年間勤務しました。事務所在籍中に,証券会社や総合商社に出向し,株式上場の支援をしたり,株主総会運営の支援をしたり,という経験もさせてもらいました。現在は、独立し、如水法律事務所という事務所を立ち上げました。
現在の業務としては,会社法などに関する企業の一般的な法律相談から労働問題・保険問題に関する訴訟,事業再編に伴うデュ-デリジェンスなどもしつつ,少年付添事件や国選の刑事事件など,幅広い業務を行っています。現在では,福岡市が推進しているスタートアップ企業やその後の成長企業の育成に関する業務にも力を入れていて,福岡市が設置しているスタートアップカフェの中での法律相談(主催は福岡市雇用労働相談センター)や成長企業向けのセミナーでの講師などもしています。
九州大学法科大学院では,既修コースとして2年間在籍いたしましたが,法律の基礎的・理論的な学修から実務的なところまで非常に充実した教育を受けられました。
実務に出てから様々な相談を受けたり,訴訟事件を解決したり,という過程においては,法律の趣旨や裁判例などに立ち返って検討をする必要がどうしても出てきます。そのような中で,法科大学院で学んだリサーチをする技術やリサーチした内容を第三者に説明するためにレポートにまとめる技術といったものは,実務に携わるうえで,非常に重宝しています。
司法試験科目以外の科目についても,幅広い教育の機会を得ることができ,たとえば,少年法は,学部生時代には全く学修していませんでしたが,法科大学院では,全くの初学者である私でも理解できる基礎的なところから始めていただいて,実務に出たうえでも直面する実践的な問題についてまで教えていただきました。授業についていくのは大変でしたが,そのような経験をしたことで,今でも少年付添事件に対して,真摯に取り組めているのだと感謝しています。
実務家の先生方との交流の機会を持てたことも非常にありがたく,事件の処理の仕方,依頼者との付き合い方,裁判所や検察庁の考え方など,実務に出てからも参考になることが多くありました。
そして,福岡で弁護士として働くうえでは,同じ空間で同じ目的に向かって勉強してきた仲間がいるということが何よりも重要で,法廷に行くたび,弁護士会の委員会やセミナーに出席するたびに,法科大学院の同窓生と会って,近況や現在悩んでいる事件のことなどを話しています。
弁護士業界を取り巻く環境も日々変化を続けていますが,まだまだ法律の専門家の力が必要な場は多く残されています。九州大学法科大学院の先輩として,後輩の皆様が,同じ法曹の仲間として活躍されるのを楽しみにしております。
安孫子健輔(NPO法人そだちの樹スタッフ・弁護士)
11年前,私は何となく弁護士になるつもりで,何となくこの法科大学院に入学しました。当時はまだ卒業生のうち「例えば約7~8割」が司法試験に合格できると信じられていて,進路を固める勇気のなかった私には,もう少し現実に目をつぶっていられる逃げ場として,この上なく魅力的な進学先でした。
いま,私は小さなNPO法人のスタッフとして活動しています。家庭で暮らせない子どもや,頼る家族がいない若者の相談を聞き,さまざまな社会資源をつないで,解決を後押しする仕事です。虐待を受けるので家に帰れない。施設を出て暮らしているけど寂しくて仕方がない。小学生のころから中洲で体を売っている。いま手首を切っている。そんなヘルプが,どこからともなく舞い込んできます。一般的に言って,これは弁護士の仕事ではありません。ソーシャルワーカーと呼ばれる福祉の専門職が担っている仕事です。
これだけ言うと,何となく法科大学院に入って,何となく卒業して,そのまま別の畑に行っただけの人の話のようですが,決してそういうつもりではありません。私の活動の原点は,すべて九州大学法科大学院にあります。
私は何となく弁護士になるつもりでしたが,それは小さいころから思い描いていた,人のために働きたいというありふれた将来像のひとつとして,たまたま思いついたからにすぎません。しかしどうせ弁護士になるなら,本当に困っている人の力になろうという想いはありました。だから法科大学院では,この社会にどんな困った人たちがいるのか,その人たちはどうして困っているのか,そこで法律は何をしているのかを,ずっと探していました。
九州大学法科大学院は,本当は学部時代に片付けておくべき自分探しの機会を,存分に与えてくれました。第一に,教壇に立つ先生たちが,私に新しい社会のあり方を見せてくれました。少年法のT先生は,異質な理念の間を揺れ動く制度が,子どもたちのそだちに影を落としている様子を見せてくれました。精神医療と法のK先生は,伝統的に権利が問題とされてこなかった領域で,法律が何をしているのかを見せてくれました。民事訴訟法のK先生は,当事者が争い啀み合う法廷が,未来を語る対話の場になりうる可能性を見せてくれました。その中で私は,法律の手の届きにくい,どうにも困った問題があることを知りました。それがいま取り組んでいる「福祉」の問題でした。
第二に,早朝・深夜も利用できる大学院棟で,自分の好きな時間に,好きなだけ本が読めました。朝型の私には,これはたいへんありがたいサービスでした。気になる問題があれば,昼夜を問わず図書室から文献を引っ張り出して,気の済むまで読み耽ることができました。教科書の淡白な書きぶりからは読み取りにくい問題に,じっくり向き合うことができました。ぼんやり見えるようになった福祉の課題が,自分のキャリアとして視野に入ってくるようになりました。
第三に,いまも私を支えてくれる,たくさんの人との出会いがありました。自分の手に負えない相談があったとき,まず思い浮かぶのは法科大学院の同期たちです。法律家としてはもちろん,さまざまな分野で走っている彼らは,いつも私に勇気と,安心を与えてくれます。実務家教員や,エクスターンシップで出会った先生たちも,弁護士像を超えて,理想とする人間像のモデルを与えてくれました。
こうやって私は,九州大学法科大学院の衣を着て,日々子どもたち,若者たちと向き合っています。私の働きが,社会にとってどれほどの幸せをもたらしているのかは分かりません。でも,わずかでも幸せを感じてくれた人がいるなら,それはみんな,ここでの学びとつながっています。