[2021夏] GVプログラム特別講演:企業法務と訴訟について

2021年8月4日、九州大学法学部の卒業生であり、株式会社Kyuluxの法務部マネージャーの池田紀子氏に「企業法務と訴訟」というテーマでご講演いただきました。池田氏は大学卒業後、本田技研工業株式会社(ホンダ)の法務部で長年企業法務を担当され、アメリカでの訴訟を数多く経験されました。そのご経験をもとに、日本の訴訟とアメリカでの訴訟を比較しながらお話していただきました。

池田氏によれば、アメリカと日本の訴訟制度の違いは様々ありますが、なかでも民事訴訟においても採用されている陪審制と、ディスカバリー(証拠開示)制度は、日本と大きく異なるとともに裁判の結果にも大きく影響します。まず、日本においては刑事裁判でのみ裁判員制度が採用されていますが、アメリカでは民事裁判においても陪審制がとられています。それ故に、いかに陪審員の感情に訴えて、共感を得ることができるのかが重要になると言います。そのような違いもあり、アメリカではトライアル(裁判)はまるで劇場のような雰囲気になることが多いそうです。よって、アメリカにおいて日本の企業が関わる裁判を行う際は、陪審制の特徴を正確に把握し準備する必要があります。

証拠開示制度は、大きく区分すると英米法の国と大陸法の国で違いが出ます。アメリカをはじめとする英米法の国においては、原則として争点に関するあらゆる情報が証拠開示の対象となり、例外的にPrivilege(秘匿特権)が認められると証拠開示を拒否することができます。ここでいうPrivilege(秘匿特権)は、英米法の国では「依頼者が持つ権利」として認められているため、弁護士と依頼者の相談内容などが争点に関する事柄であったとしても、それらの情報について証拠開示を拒否することができます。しかし、大陸法の国では、依頼者は基本的に証言を拒絶することはできません。ただし、例外的に「弁護士が持つ職業上の守秘義務の効果」として、依頼者との相談内容について秘密として取り扱われることはあります。このように国際訴訟・仲裁の場においては、証拠開示制度の違いを理解したうえで裁判に臨む必要があると言います。

私は、アメリカの訴訟について実務を経験された方からお話を聞くのは初めてで、今回の内容はどれも新鮮で興味深いものばかりでした。お話を伺う中で各国の制度の違いや特徴を把握することは、難しいことでありまた、それこそが国際間の訴訟の醍醐味であると感じました。私自身も、将来国際間の訴訟や法律業務に関わるような仕事をしたいと思っているので、今回の講演の内容は大変参考になりました。講演の最後には、将来企業法務にかかわりたい学生には外国語の習得と、グローバルな価値観に触れることを大切にしてほしいとアドバイスをいただきました。今後も、法学部での学びを深めながら外国語のスキル向上に精進したいと思います。この度は、貴重な機会を提供していただきありがとうございました。

今泉 友希