世界展開クロージングイベント

2016年2月17日、18日、九州大学西新プラザにおいて九州大学法学部・法学府のプロジェクト「スパイラル型恊働教育モデル〜リーガルマインドによる普遍性と多様性の均衡を目指して」のクロージングイベントが行われた。
そもそも、このプロジェクトは平成24年度に文部科学省の「大学の世界展開力強化事業」に採択された5年間のプロジェクトで、九州大学の学生とASEAN地域の学生との交流促進を目指しつつ、リーガルマインドをキーワードに異文化理解を深めつつ、日本の(法)文化を発信しようという試みであった。具体的には同地域の4つの大学(シンガポール国立大学、マラヤ大学、チュラーロンコーン大学、アテネオ・デ・マニラ大学)と連携し、短期留学・一学期間留学・ダブルディグリープログラムなどを構築し、学生の派遣・受入を5年間に亘って実現してきた。

まずは久保千春九州大学総長、文部科学省・国際企画室・堀尾多香室長補佐からのご挨拶を頂いた。その後、本プロジェクトの中心メンバーである五十君麻里子教授が、本プロジェクトについて、特に学生の「短期留学プログラム」と「SENDプログラム」について説明した。短期留学プログラムは「紛争管理」、「文化遺産・文化的アイデンティティ」、「クールジャパン」のいずれかをテーマとして、短期留学前のトレーニングプログラムを受講した学生をASEAN地域に派遣し、現地の大学で法学部生や日本学科生と合同セミナーを開催させ、さらに現地の高校でも高校生向けにワークショップを行わせるというものであった。SENDプログラムとは、このASEAN地域の高校生と行うワークショップのことである。このワークショップに関しては、九州大学の学生が主体となってワークショップの発案、計画、準備、実施を行うものである。ワークショップの内容は日本文化の紹介である。クロージングイベントにおいても、九州大学の大学生と現地から来日した高校生によってワークショップの様子が再現された。

その後、九州大学の学生とASEAN地域から来日した協力大学の学生とが合同で模擬世界遺産委員会を行い、これまでの学習の成果を披露した。模擬世界遺産委員会とは、世界遺産の登録の是非などを話し合うユネスコの下部機関である世界遺産委員会を模したもので、実際に2016年に世界遺産リストに登録されたジブラルタルの「ゴーハムの洞窟群」の登録の是非について議論がおこなわれた。実際の世界遺産委員会は世界遺産条約締約国総会で選出された21か国の代表によって構成されているが、本模擬世界遺産委員会では学生が10のグループに分かれ、それぞれ現実の世界遺産委員会構成国のように発言を行った。なお、本模擬世界遺産委員会の委員長も、九州大学法学府の国際プログラム所属のアテネオ・デ・マニラ出身学生が務めめた。そして、同じく委員会の構成員であるICOMOS(国際記念物遺跡会議)代表は、実際の世界遺産委員会にもICOMOS代表として出席される、現ICOMOS副会長であり、本プロジェクトリーダーの一人でもある河野俊行教授が務め、また委員会の書記官も現在、ユネスコ・文化担当官である千葉茂恵氏に務めて頂いた。

模擬世界遺産委員会での議論は、裁判のような一種の勝ち負けを決めるための議論ではなく、参加者の間で何らかの合意を形成するための議論を行うべきものであり、九州大学の学生もASEAN地域の学生も十分な事前準備を行っていたとはいえ、なかなか困難なものであった。しかし、途切れることなく二時間続いた議論の末、合意形成に見事成功し、クロージングイベントに参加していた方々からの高い評価を得た。さらに、この模擬世界遺産委員会に参加した学生一人一人も、充実感や自信、あるいは今後の自身の成長のための課題を見出すことができ、その意味でも非常に良い機会であったといえよう。