3・4年次を対象としたゼミについてご紹介いたします。
「知的財産法演習(小島ゼミ)」ではどのような活動が行われているのか、ゼミを担当されている小島立先生に伺いました。
Q:「知的財産法」とは?
私たちは、無数の「人が生み出したもの」(以下、「知的成果物」という)に囲まれて暮らしています。私たちが子供の頃に描いた絵画もその一つでしょうし、皆さんが日々の生活においてSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)において投稿する内容も含まれるでしょう。また、私たちがさまざまな科学技術イノベーションの恩恵を受けながら暮らしていることも言うまでもありません。
知的財産法は、これらのさまざまな知的成果物が生み出され、世の中に送り出され、そして、享受される過程に関係する者(アクター)の活動に対して法的な介入を行う制度です。その法的な介入においては、いかなる知的成果物を主にどの知的財産法(例えば、主に技術に関係する特許法、主に文化的表現に関係する著作権法、主に商品またはサービスの出所を示す標章に関係する商標法など)で取り扱うのか、知的成果物のいかなる範囲に財産権や人格権などの権利を発生させるのか、それらの権利をどのような条件の下で誰に帰属させるのか、知的成果物のどのような利用の範囲について権利行使を認めるのか、といった事柄について、知的成果物に関わるアクターの間で調整が必要となります。知的財産法は、これらの調整を行うことによって、社会においていかなる模倣を認め、いかなる模倣を認めるべきでないのかという線引きを行う任務を負っています。
Q:ゼミの活動内容を教えて下さい。
知的財産法演習における主な取り組みは、1つの判決(通常は民事判決)を数週間かけてじっくりと分析することです。 (1)原告の請求は何か。 (2)原告の請求を成り立たせるために必要となる(通常は複数の)条文は何か。 (3)それらの条文の効果を発生させるために原告が主張すべき事実(いわゆる「要件事実」)は何か。 (4)原告の主張に対して被告はどのように反論しているか。 (5)原告と被告の主張の結果として浮かび上がった争点に対して裁判所はどのように規範を立てて結論を導いているか。 これらを丁寧に分析することを通じて、「法的な問題解決手法」を学ぶことを目指しています。
Q:最近のゼミでの取り組みを教えて下さい。
後期に、現代的な社会課題について検討する試みを行っています。2022年度は、授業担当者が現在進めている「空飛ぶクルマ」の社会実装に関する文理融合研究に関係する課題を取り上げる予定です。さらに、新型コロナウイルス感染症の状況にもよりますが、知的財産法を取り巻く社会の状況についてより良く知るために、課外活動として「フィールドワーク」も行いたいと考えています
Q:新入生・受験生に向けて一言お願いします!
大学入試までの学びは、主として、試験問題という「箱庭」、かつ、限られた時間の制約の中で、可能な限り正確な答えを導き出す能力を身につけるというものではないかと思います。 意外に感じられるかもしれませんが、大学に入ってからも、このような学びも依然として続きます。例えば弁護士、医師、建築士などになるためには国家試験に合格しないといけません。どんなに体調が悪くても、「プロフェッショナル」として最低水準の仕事をする能力が求められるからです。また、留学したいと考えるのであれば、語学試験で高水準の点数を取ることは必須です。これらの試験という関門をクリアするためには、必要な知識や「型」を身につけることが必要であり、いわゆる「試験勉強」はそれに当たります。しかし、大学以降の学びでは、現状をできる限り正確に観察して、そこに存在する課題を自ら見つけ出すとともに、それらの課題に対する適切な解決策を与えることも問われます。ここで申し上げた内容は、まさに「研究論文」の書き方であるとともに、「プロフェッショナル」としての仕事のお作法ではないかと思います。このように、大学以降の学びでは、課題は誰かに与えられるものではなく、自ら発見して解決策を模索し続けていくべきものであり、だからこそ、高校までの学びは「勉強」、大学以降の学びは「研究」と呼ばれるのかもしれません。
どんな偉大な芸術家やスポーツ選手も、基本的な技術や「型」の習得なくして大輪の花を咲かせることはできなかったはずです。試験勉強の過程では、しんどいこともあるでしょうが、頑張って下さい。例えば、受験勉強で培った英語能力は、必ずや国際舞台で仕事をする際の基盤になるはずです。その上で、大学に入られたら、社会でプロフェッショナルとして活躍するために、課題を自ら発見して解決する能力を涵養していって下さい。九州大学で、皆さんと一緒にそのような学びの機会を持てることを心待ちにしています。
「外交史演習(中島ゼミ)」ではどのような活動が行われているのか、ゼミを担当されている中島琢磨先生に伺いました。
Q:「外交史」とは?
国の外交の歴史を、当時の国内政治や国際情勢の動きを踏まえながら考察する分野です。外交は、そのときの国内の政治状況や社会情勢の影響を受けて展開されるので、外交の歴史を通じて、当時の時代の風景を深く知ることができる面白さもあります。日本でも現在、過去の外交文書が積極的に公開されており、1972年の沖縄返還や日中国交正常化など過去の外交交渉がどのようにして進んだのか、外交文書から当時の様子をたどることができます。ある国との対立がなぜ生じ、どのように問題の解決が図られたのか、外交をめぐる種々の因果関係を整理して理解する経験は、将来のさまざまな仕事にも役立つのではないかと考えています。
Q:ゼミの活動内容を教えてください。
今期は、戦後の日本外交の通史をテキストにして、講読とディスカッションとを行っています。はじめ、報告班がレジュメをもとに報告を行い、所見を述べます。報告を聞いたのち、各グループで報告内容について話し合い、質問を準備します。最後に、各グループと報告班との間で質疑応答を行います。先日のゼミでは、1970年代(デタント期)から80年代(新冷戦期)にかけての日本外交を扱った章を取り上げ、当時の「日本の論理」とは何かについて、著者の意図を探ったり、それぞれが「日本の論理」についてどう考えるかを議論したりしました。
Q:新入生・受験生に向けて一言お願いします!
先日、同僚の先生が1984年につくられた法学部設立六十年の記念冊子を紹介してくれ、見るとそのタイトルが「自由の学燈をかかげて」でした。法学部ではいまも自由な学風が受け継がれており、多彩な授業とゼミとが展開されています。法学部での経験が、みなさんの実りある学生生活につながることを願っています。
※写真は、九州大学旧法文学部本館(出典:法学部百年史編集委員会「九州大学法学部・法科大学院の歩み」法政研究81巻4号758頁)
著作:九州大学法学部広報委員会